医学部編入試験で成功する学習環境の作り方
なぜ勉強法より環境が大切なのか
医学部編入を目指している人に「何から始めればいい?」と聞かれたら、多くの先輩は「まずは参考書選びから」「予備校に通うかどうか決めよう」と答えるだろう。でも実は、最初にやるべきことは全く違う。それは学習環境を整えることである。
なぜ環境が大切なのか。理由は単純だ。どんなに良い参考書を買っても、どんなに優秀な講師に教わっても、集中できない環境では効果が半減してしまうからである。これは科学的にも証明されている事実だ。
脳科学が教える「黄金時間」の秘密
まず知っておきたいのが、人間の脳にはパフォーマンスが最高になる時間帯があることだ。神経科学の研究によると、起床後2〜4時間の間は脳の前頭前野(考える力を司る部分)の活動が最も活発になる。
つまり、朝の時間は勉強のゴールデンタイムなのである。この時間に新しい概念を学んだり、難しい問題に取り組んだりすると、夜に同じことをするより3〜5倍も効率が良いという研究結果もある。
「でも朝は苦手で…」という人もいるかもしれない。しかし、これは単なる習慣の問題である。1週間だけでも早起きして朝勉強してみてほしい。きっと驚くほど頭がスッキリしていることに気づくはずだ。
食べ物が勉強効率を左右する
「お腹いっぱい食べると眠くなる」という経験は誰にでもあるだろう。これは血糖値の急激な変化が原因である。炭水化物を大量に摂取すると血糖値が急上昇し、その後急降下する。この時に強い眠気が襲ってくるのだ。
特に朝食は要注意である。パンやご飯をたくさん食べてしまうと、せっかくの朝のゴールデンタイムが台無しになってしまう。実際に、朝食を軽めにしたり、場合によっては抜いたりする方が集中力が持続するという報告もある。
ただし、これには個人差がある。大切なのは自分にとって最適な食事パターンを見つけることだ。1週間ごとに朝食の内容を変えて、どの時が最も調子が良いか実験してみよう。
コーヒーなどのカフェインも上手に使えば強い味方になる。適量のカフェイン(コーヒー1〜2杯程度)は集中力と記憶力を向上させることが分かっている。ただし、飲みすぎや夕方以降の摂取は睡眠の質を下げるので注意が必要だ。
教科書は2冊以上がベスト
医学部編入の勉強では、必ず教科書が必要になる。ここで大切なのが、同じ分野の教科書を最低2冊は用意することである。
「お金がもったいない」と思うかもしれないが、これには科学的な理由がある。認知心理学の研究で「精緻化効果」というものが知られている。これは、同じ情報を異なる文脈や表現で学ぶことで、記憶の定着率が飛躍的に向上するというものだ。
例えば、生化学の代謝経路を学ぶ時、A教科書では「グルコースが分解されて…」と説明され、B教科書では「糖が細胞内でエネルギーに…」と表現されているとする。この違いが脳内で情報の結びつきを強くし、忘れにくい知識として定着するのである。
集中力を科学的に高める環境作り
照明の力
意外と見落としがちなのが照明である。薄暗い部屋で勉強していても、脳は「夜だから休む時間」と判断してしまう。理想的なのは自然光だが、それが難しい場合は昼白色のLED照明を使おう。明るさは800〜1000ルクス程度が最適である。
温度と湿度
室温20〜22度、湿度40〜60%の環境で最も集中力が高まることが研究で明らかになっている。エアコンや加湿器を使って、この条件に近づけよう。
音環境
完全に静かな環境より、図書館程度の軽い雑音(40〜50デシベル)がある方が集中しやすいという研究もある。これを「ホワイトノイズ効果」という。カフェで勉強が捗る人が多いのも、この効果が関係している。
スマホは最大の敵
現代の学習で最も注意すべきなのがスマートフォンである。スマホが視界に入るだけで集中力が25%低下するという恐ろしい研究結果がある。
勉強中はスマホを別の部屋に置くか、電源を切ってしまおう。「緊急の連絡が…」と心配する人もいるが、本当の緊急事態はそうそう起こらない。2〜3時間スマホを見なくても世界は終わらないのである。
自分だけの最適解を見つけよう
ここまで一般的な原則を説明してきたが、最も大切なのは自分に合った環境を見つけることである。人間の体質や性格は千差万別だ。他人に効果的な方法が、必ずしも自分にも当てはまるとは限らない。
そこで提案したいのが「学習実験」である。以下の要素を1週間ずつ変えて、どの組み合わせが最も効果的か調べてみよう:
- 勉強する時間帯(朝型 vs 夜型)
- 朝食の内容(しっかり食べる vs 軽め vs 抜く)
- 勉強場所(自宅 vs 図書館 vs カフェ)
- 休憩の取り方(15分ごと vs 45分ごと vs 90分ごと)
- 音楽の有無
重要なのは、感覚ではなく実際の成果で判断することだ。理解度テストを作って採点したり、覚えた単語数を数えたりして、客観的にデータを取ろう。
最初の1〜2ヶ月を環境作りに使うのは決して無駄ではない。この投資によって得られる効率向上は、長期的に見れば何倍もの価値を生み出すからである。
習慣化のコツ
良い環境を作っても、それを続けられなければ意味がない。習慣化の研究によると、新しい行動が自動的になるまでには平均66日かかる。
習慣化を成功させるコツは以下の通りである:
- 小さく始める:いきなり毎日3時間ではなく、30分から始める
- 同じ時間に行う:毎日同じ時刻に勉強することで、体内時計がリズムを覚える
- ご褒美を設定する:1週間続けたら好きなものを食べるなど、小さなご褒美を用意する
- 記録をつける:カレンダーに丸印をつけるだけでも、継続の励みになる
まとめ:環境が全てを決める
医学部編入試験は長期戦である。1〜3年という長い期間を乗り切るためには、短期的なやる気や根性だけでは限界がある。必要なのは、継続可能な学習システムの構築である。
そのシステムの土台となるのが学習環境なのだ。良い環境で学んだ知識は深く定着し、応用問題にも対応できる「使える知識」になる。一方、劣悪な環境で無理やり詰め込んだ知識は、試験が終わると同時に忘れ去られてしまう。
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