⚗️ 鹿児島大学医学部 第3問 完全解答解説
📋 問題概要と全体構造
🎯 問題の特徴と出題意図
🌡️ 熱力学基礎
- ギブス自由エネルギー
- エンタルピーとエントロピー
- 自発反応の条件
- 平衡定数との関係
🍬 解糖系
- ピルビン酸キナーゼ反応
- 標準自由エネルギー変化
- ATP合成の駆動力
- 代謝制御の重要性
⚡ 電子伝達系
- 酸化還元電位
- 電子伝達複合体I
- プロトン勾配形成
- ATP合成への連携
🥛 乳酸発酵
- 嫌気的解糖
- NAD⁺再生機構
- 平衡定数の計算
- 筋肉での役割
📖 生体エネルギー学の重要性
💡 ギブス-ヘルムホルツ方程式の生物学的意義
この基本方程式は生体内の全ての化学反応を支配しています:
- ΔG < 0:自発的に進行する反応(エルゴン反応)
- ΔG > 0:エネルギー投入が必要な反応(エンデルゴン反応)
- ΔG = 0:平衡状態
- 共役反応:エルゴン反応でエンデルゴン反応を駆動
🔬 生体系での特殊性
生体内の反応は標準状態(1 M、25℃、pH 0)とは大きく異なる条件下で進行:
- 生理的pH:pH 7.0付近での反応
- 低濃度:mM~μMレベルの基質濃度
- 体温:37℃(298K)での反応速度
- 水溶液環境:水の活量を考慮した反応
🎮 問題の難易度分析
設問 | 分野 | 難易度 | 配点予想 | 重要度 |
---|---|---|---|---|
(1) 空欄a~c | 熱力学基礎 | ★★☆ | 15点 | 基本 |
(2) ピルビン酸キナーゼ | 解糖系計算 | ★★★ | 20点 | 高 |
(3) 電子伝達複合体I | 酸化還元 | ★★★ | 20点 | 高 |
(4a) 乳酸DH標準ΔG | 複合反応計算 | ★★★★ | 20点 | 最高 |
(4b) 平衡定数 | 平衡論 | ★★★★ | 25点 | 最高 |
🌡️ 熱力学の基礎法則と生体反応
⚖️ ギブス自由エネルギーの本質
ギブス-ヘルムホルツの基本方程式
🔍 各項の物理的意味
系の持つ熱含量の変化。化学結合の形成・切断に関わるエネルギー変化。
系の無秩序さ(乱雑さ)の変化。分子の自由度や分散状態の変化。
反応環境の温度。エントロピー項の重要性を決定する因子。
🔄 可逆過程と不可逆過程
📐 可逆過程の理想条件
可逆過程では系と環境の間にエントロピー変化がない:
しかし、生体内の実際の反応は非可逆過程であり、常にΔS > 0となります。
✅ 設問(1)の解答
- a:0
- b:増加する
- c:>(大なり)
🍬 解糖系における自由エネルギー変化
🔄 ピルビン酸キナーゼ反応の重要性
⚗️ ピルビン酸キナーゼ反応
この反応は実際には以下の2段階として理解できます:
段階2: ADP + Pi → ATP ΔG°’ = +30.5 kJ/mol
🧮 標準自由エネルギー変化の計算
📊 与えられたデータの整理
反応 | ΔG°’ (kJ/mol) |
---|---|
ホスホエノールピルビン酸 → ピルビン酸 + Pi | −61.9 |
ATP → ADP + Pi | −30.5 |
📝 計算手順
ADP + Pi → ATP の ΔG°’ = +30.5 kJ/mol
ΔG°'(全反応) = ΔG°'(PEP分解) + ΔG°'(ATP合成)
ΔG°’ = (−61.9) + (+30.5) = −31.4 kJ/mol
✅ 設問(2)の解答
−31.4 kJ/mol
⚡ 電子伝達系と酸化還元電位
🔋 電子伝達複合体Iの機能
⚡ 複合体Iが触媒する反応
この反応は以下の半反応に分解できます:
還元半反応: CoQ + 2H⁺ + 2e⁻ → CoQH₂
📐 標準還元電位と自由エネルギー
🔢 与えられた標準還元電位データ
半反応 | E₀’ (V) |
---|---|
NAD⁺ + 2H⁺ + 2e⁻ → NADH + H⁺ | −0.320 |
CoQ + 2H⁺ + 2e⁻ → CoQH₂ | 0.0450 |
📝 ΔG°’計算の手順
ΔE₀’ = E₀'(受容体) − E₀'(供与体) = 0.0450 − (−0.320) = 0.365 V
この反応では n = 2 (2個の電子が移動)
ΔG°’ = −nFΔE₀’ = −2 × 96.5 × 0.365 = −70.4 kJ/mol
= −2 × 96.5 × 0.365
= −70.4 kJ/mol
✅ 設問(3)の解答
−70.4 kJ/mol
🥛 乳酸発酵と嫌気的代謝
🔄 乳酸デヒドロゲナーゼ反応
⚗️ 乳酸デヒドロゲナーゼ反応
この反応は以下の半反応の組み合わせです:
還元半反応: ピルビン酸 + 2H⁺ + 2e⁻ → 乳酸
🧮 標準自由エネルギー変化の計算
📊 必要なデータの整理
半反応 | E₀’ (V) |
---|---|
NAD⁺ + 2H⁺ + 2e⁻ → NADH + H⁺ | −0.320 |
ピルビン酸 + 2H⁺ + 2e⁻ → 乳酸 | −0.185 |
📝 設問(4a) ΔG°’の計算
ΔE₀’ = E₀'(ピルビン酸/乳酸) − E₀'(NAD⁺/NADH)
= (−0.185) − (−0.320) = 0.135 V
ΔG°’ = −nFΔE₀’ = −2 × 96.5 × 0.135 = −26.1 kJ/mol
= −2 × 96.5 × 0.135
= −26.1 kJ/mol
✅ 設問(4a)の解答
−26.1 kJ/mol
⚖️ 平衡定数の計算
🔗 ΔG°’と平衡定数の関係
K: 平衡定数, R: 気体定数, T: 絶対温度
📝 設問(4b) 平衡定数の計算
ln K = −ΔG°’/RT = −(−26.1)/(8.31 × 298) = 26,100/2,476.4 = 10.54
K = e^(10.54) = e^(10) × e^(0.54) = e^10 × √e
= 22,026 × 1.65 = 36,343
K = 3.63 × 10⁴
📐 詳細計算過程
1. ln K = 26,100 ÷ (8.31 × 298) = 26,100 ÷ 2,476.4 = 10.54
2. e^(10.54) = e^10 × e^(0.54)
3. e^10 ≈ 22,026(指数関数表より)
4. e^(0.54) ≈ √e = 1.65(問題で与えられた値)
5. K = 22,026 × 1.65 = 36,343 ≈ 3.63 × 10⁴
✅ 設問(4b)の解答
3.63 × 10⁴
✅ 第3問 全問題解答一覧
🌡️ 設問(1):熱力学基礎理論
解答
- a:0
- b:増加する
- c:>(大なり)
💡 解答根拠
(a) 可逆過程では全エントロピー変化がゼロ(理想的条件)
(b) 吸熱でエントロピー増加する反応は高温で自発的になりやすい
(c) 発熱・エントロピー減少反応が自発的な条件:|ΔH| > T|ΔS|
🍬 設問(2):ピルビン酸キナーゼ反応
解答
−31.4 kJ/mol
📐 計算過程
PEP → ピルビン酸 + Pi:ΔG°’ = −61.9 kJ/mol
ADP + Pi → ATP:ΔG°’ = +30.5 kJ/mol
全反応:ΔG°’ = −61.9 + 30.5 = −31.4 kJ/mol
⚡ 設問(3):電子伝達複合体I
解答
−70.4 kJ/mol
📐 計算過程
ΔE₀’ = 0.0450 − (−0.320) = 0.365 V
ΔG°’ = −nFΔE₀’ = −2 × 96.5 × 0.365 = −70.4 kJ/mol
🥛 設問(4a):乳酸デヒドロゲナーゼのΔG°’
解答
−26.1 kJ/mol
📐 計算過程
ΔE₀’ = (−0.185) − (−0.320) = 0.135 V
ΔG°’ = −nFΔE₀’ = −2 × 96.5 × 0.135 = −26.1 kJ/mol
⚖️ 設問(4b):平衡定数
解答
3.63 × 10⁴
📐 計算過程
ln K = −ΔG°’/RT = 26,100/(8.31 × 298) = 10.54
K = e^(10.54) = e^10 × e^(0.54) = 22,026 × 1.65 = 36,343
有効数字3桁:K = 3.63 × 10⁴
🎯 解答のポイントと学習指針
⭐ 高得点のコツ
- 有効数字の正確な処理
- 単位の一貫した使用
- 計算過程の明示
- 物理的意味の理解
❌ 注意すべき点
- 符号の取り扱いミス
- 単位変換の誤り
- 公式の記憶違い
- 数値計算の精度不足
📚 重要な概念
- ギブス自由エネルギー
- 標準還元電位
- 平衡定数
- 生体エネルギー論
🎓 発展学習
- ATP合成機構
- 代謝制御機構
- 膜電位と輸送
- 酸化ストレス
🧠 生化学的意義の統合理解
🔗 各反応の相互関係
この問題で扱った反応は、細胞内エネルギー代謝の重要な側面を表しています:
- 解糖系:グルコースからピルビン酸への変換でATP産生
- 電子伝達系:NADH酸化でプロトン勾配形成
- 乳酸発酵:嫌気条件下でのNAD⁺再生
- ATP合成:すべての過程の最終目標