🧬 鹿児島大学医学部 第1問 完全解答解説
📋 問題概要と全体構造
🎯 問題の構成と出題意図
🦠 免疫学分野
- 自然免疫 vs 獲得免疫
- 抗原提示メカニズム
- T細胞・B細胞の機能
- ウイルス感染への応答
🧬 分子生物学分野
- 三ドメイン分類体系
- Cre-loxPシステム
- 遺伝子機能解析
- 抗原プロセシング
🧮 遺伝学分野
- メンデルの法則応用
- 交配実験設計
- 確率計算
- ノックアウトマウス作製
📖 問題文の詳細解析
💡 導入部分の解説
この導入文は免疫系の基本定義を示しています。重要なのは:
- 自己 vs 非自己の認識:免疫学の最基本概念
- 病原体の排除:免疫系の主要機能
- 進化的発達:後の分類体系への伏線
🔬 実験の背景設定
研究対象:αウイルスに対する免疫応答
主要登場人物:免疫学者(あなた)
発見:JAWSII細胞のX遺伝子が抗原プロセシングに重要
研究課題:細胞株での結果を生体レベルで検証
🎮 問題の難易度分析
設問 | 分野 | 難易度 | 配点予想 | 重要度 |
---|---|---|---|---|
(1) 空欄補充A~G | 基礎知識 | ★★☆ | 14点 | 基本 |
(2) ドメイン推定 | データ解釈 | ★★★ | 15点 | 高 |
(3) Y遺伝子例示 | 分子生物学 | ★★★ | 15点 | 高 |
(4) 空欄イ~ニ | 遺伝学 | ★★★ | 8点 | 中 |
(5) X遺伝子役割 | 総合判断 | ★★★★ | 20点 | 最高 |
(6) 解析方法4つ | 実験デザイン | ★★★★★ | 28点 | 最高 |
🔬 実験1:Cre-loxPシステムの詳細解析
⚙️ Cre-loxPシステムの原理
🔄 Cre-loxPシステムの詳細メカニズム
削除したいエキソンの両端に34塩基対のloxP配列を挿入。loxPは左右の配向性を持つ。
組織特異的プロモーターまたは薬剤誘導プロモーターによりCre遺伝子を発現制御。
Creが2つのloxP配列を認識し、相同組換えにより間の配列を環状DNAとして除去。
1つのloxP配列(scar sequence)が残存し、目的エキソンの完全削除が完了。
🧪 JAWSII細胞を用いた機能解析実験
📊 実験デザインの詳細
使用細胞:JAWSII(マウス樹状細胞由来株化細胞)
実験目的:X遺伝子のどのエキソンが機能に重要かを特定
方法:各エキソン欠損変異体の強制発現 + DQ-OVA取り込み実験
評価指標:蛍光強度(抗原プロセシング能力の指標)
🎯 実験の工夫点
- フレームシフト回避:エキソン削除時にフレームシフトが起こらないよう設計
- 発現量統一:WT・変異体の発現量をほぼ等しく調整
- 内在性遺伝子の無視:強制発現により内在性X遺伝子の影響を排除
- 定量解析:平均蛍光強度による客観的評価
📈 図2B:蛍光強度データの詳細解釈
📊 データ読み取りのポイント
条件 | 蛍光強度 | 有意差 | 解釈 |
---|---|---|---|
WT(野生型) | 約2500 | – | 基準値(100%活性) |
Δ1(エキソン1欠損) | 約2400 | NS | 機能に非必須 |
Δ2(エキソン2欠損) | 約1500 | * | 機能に重要(40%減少) |
Δ3(エキソン3欠損) | 約1000 | * | 機能に重要(60%減少) |
✅ 設問(2)の解答
推定エキソン:エキソン2および3
根拠(100字以内):
図2BでΔ2およびΔ3変異体において蛍光強度が野生型と比較して有意に低下している。 これはエキソン2と3が抗原プロセシング機能に必須のドメインをコードしていることを示している。(99字)
✅ 全問題解答一覧
📝 設問(1):空欄A~G
解答
- A:真核生物
- B:原核生物
- C:バクテリア(細菌)
- D:アーキア(古細菌)
- E:三ドメイン
- F:自然(先天性)
- G:獲得(適応)
📊 設問(2):ドメイン推定
解答
推定エキソン:エキソン2および3
根拠:図2BでΔ2およびΔ3変異体において蛍光強度が野生型と比較して有意に低下している。 これはエキソン2と3が抗原プロセシング機能に必須のドメインをコードしていることを示している。
🧬 設問(3):Y遺伝子例示
解答
Y遺伝子例:β-actin遺伝子
理由:β-actin遺伝子は全ての細胞で恒常的に発現するため、そのプロモーターを利用することで 全身の細胞でCre遺伝子が発現し、全細胞でのX遺伝子エキソン欠損が可能となる。
🧮 設問(4):遺伝学用語
解答
- イ:ヘテロ
- ロ:ホモ
- ハ:1
- ニ:3
📈 設問(5):X遺伝子の役割
解答
着目点:X-KOマウスが早期に全て死亡し、XZ-KOマウスも野生型より高い死亡率を示した。
X遺伝子の役割:X遺伝子はαウイルス感染に対する免疫応答において必須の役割を担う。 全身でのX遺伝子欠損により抗原プロセシング能力が失われ、ウイルス特異的T細胞の活性化が阻害される結果、 感染ウイルスを排除できず致死的となる。特にZ細胞での機能が重要である。
🔬 設問(6):成体遺伝子機能解析方法
解答(4つの方法)
1. 時期特異的ノックアウト
方法:薬剤誘導性Creシステム(Cre-ERT2など)を使用
原理:任意の時期に薬剤投与でCre活性化、成体での遺伝子欠損
2. RNAi(RNA干渉)
方法:siRNAやshRNAによる遺伝子発現抑制
原理:mRNAを特異的に分解し、タンパク質産生を阻害
3. 阻害剤・中和抗体
方法:特異的阻害剤や中和抗体の投与
原理:タンパク質の機能を直接的に阻害
4. ドミナントネガティブ
方法:機能欠失変異体の過剰発現
原理:正常タンパク質と競合し機能を阻害
🧬 実験2:条件的ノックアウトマウス作製戦略
🔬 X-loxPマウスの作製
💡 実験戦略の解説
実験1で特定された重要エキソン(2または3)の両端にloxP配列を挿入。 これにより、Cre発現時に特定のエキソンのみを削除可能となる。
🧮 交配実験の遺伝学
🔄 マウス作製の手順
Y遺伝子プロモーター下流にCre遺伝子を挿入。Y遺伝子は組織特異的に発現。
Cre挿入によりY遺伝子が破壊されるため、ヘテロ接合体として維持。
Y-Cre(ヘテロ)× X-loxP(ホモ)→ F1の一部がCre保有
F1(Cre保有)× X-loxP(ホモ)→ X-KOマウス誕生
📊 遺伝学計算の詳細
↓
F1:Ab : ab = 1 : 1
↓
F1(Ab)× X-loxP(bb)
↓
Abb : abb = 1 : 1
🎯 組織特異的ノックアウト(XZ-KO)
💡 XZ-KOマウスの意義
X遺伝子がZ細胞で高発現していることから、Z細胞特異的にX遺伝子を欠損させたマウスも作製。 これにより、特定の細胞種におけるX遺伝子の役割を解析可能。
- 全身ノックアウト(X-KO):全細胞でX遺伝子欠損
- 組織特異的ノックアウト(XZ-KO):Z細胞のみでX遺伝子欠損
- 比較解析:両者の比較により、X遺伝子の組織特異的機能を解明
📊 実験3:感染実験による生体内機能解析
🦠 αウイルス感染実験
📈 図3:生存率曲線の詳細解析
マウス群 | 10日後生存率 | 死亡パターン | 解釈 |
---|---|---|---|
感染なし野生型 | 100% | 死亡なし | 対照群(正常状態) |
感染野生型 | 約30% | 緩やかな減少 | ウイルス自体の病原性 |
感染X-KOマウス | 0% | 急速な死亡 | 免疫応答完全欠失 |
感染XZ-KOマウス | 約10% | 中程度の減少 | 部分的免疫不全 |
🔬 実験結果の生物学的意義
🎯 各群の結果から読み取れること
約30%生存 → αウイルス自体に致死性があることを確認。正常な免疫応答でも完全防御は困難。
全個体死亡 → X遺伝子は生存に絶対必要。抗原プロセシング能力の完全喪失により免疫応答が破綻。
中間的死亡率 → Z細胞でのX遺伝子機能が重要だが、他の細胞での機能も存在。
100%生存 → 対照群として実験の妥当性を保証。
💡 X遺伝子の機能推定
実験結果から、X遺伝子は以下の機能を持つと推定される:
- 抗原プロセシング:ウイルスタンパク質の分解に必須
- 免疫応答の活性化:T細胞への抗原提示に重要
- 感染防御:ウイルス感染に対する生体防御に必須
- 組織特異性:特にZ細胞での機能が重要
🎯 解答戦略と攻略法
⏰ 時間配分戦略
📊 推奨時間配分(全体150分想定)
設問 | 推奨時間 | 難易度 | 戦略 |
---|---|---|---|
(1) 空欄A~G | 5分 | 易 | 速攻で済ませる |
(2) ドメイン推定 | 10分 | 中 | 図をしっかり読み取る |
(3) Y遺伝子 | 15分 | 中 | 理由付けを丁寧に |
(4) 遺伝学計算 | 10分 | 中 | 計算ミスに注意 |
(5) X遺伝子役割 | 20分 | 難 | 論理的構成重視 |
(6) 解析方法4つ | 30分 | 最難 | 多角的思考が必要 |
📚 必要な基礎知識チェックリスト
🦠 免疫学
- 自然免疫 vs 獲得免疫
- 抗原提示機構
- T細胞・B細胞の機能
- MHC分子の種類
- 樹状細胞の役割
🧬 分子生物学
- 三ドメイン分類
- Cre-loxPシステム
- 遺伝子ノックアウト
- 抗原プロセシング
- 遺伝子発現制御
🧮 遺伝学
- メンデルの法則
- 交配実験設計
- 確率計算
- ヘテロ・ホモ接合体
- 組換え頻度
✍️ 記述問題攻略法
📝 効果的な記述の手順
字数制限、求められている内容(現象説明・原因分析・方法提案など)を明確化
結論→根拠、または原因→結果の流れで構成を決定
専門用語を正確に使用し、必要に応じて説明も併記
要点を漏らさず、制限字数内で簡潔に表現
🎯 合格への最終アドバイス
この問題の本質:単なる暗記ではなく、実験デザインの理解と科学的思考力が問われています。
重要な心構え:
- 実験の目的と方法を常に意識する
- データから論理的に結論を導く力を養う
- 複数の知識分野を統合的に活用する
- 記述では科学的根拠を明示する
💡 さらなる学習のために
この問題レベルをマスターするには:
- 論文読解:免疫学・分子生物学の原著論文を読む
- 実験思考:なぜその実験が必要か、他の方法はないかを考える
- 統合学習:異なる分野の知識を関連付けて理解する
- アウトプット練習:説明・記述能力を向上させる