鹿児島大学2025年第1問解説

🧬 鹿児島大学医学部 第1問 完全解答解説

免疫系・遺伝子編集・実験解析の総合問題を徹底攻略
  1. 📋 問題概要と全体構造
    1. 🎯 問題の構成と出題意図
      1. 🦠 免疫学分野
      2. 🧬 分子生物学分野
      3. 🧮 遺伝学分野
    2. 📖 問題文の詳細解析
      1. 💡 導入部分の解説
      2. 🔬 実験の背景設定
    3. 🎮 問題の難易度分析
  2. 🔬 実験1:Cre-loxPシステムの詳細解析
    1. ⚙️ Cre-loxPシステムの原理
      1. 🔄 Cre-loxPシステムの詳細メカニズム
    2. 🧪 JAWSII細胞を用いた機能解析実験
      1. 📊 実験デザインの詳細
      2. 🎯 実験の工夫点
    3. 📈 図2B:蛍光強度データの詳細解釈
      1. 📊 データ読み取りのポイント
      2. ✅ 設問(2)の解答
  3. ✅ 全問題解答一覧
    1. 📝 設問(1):空欄A~G
      1. 解答
    2. 📊 設問(2):ドメイン推定
      1. 解答
    3. 🧬 設問(3):Y遺伝子例示
      1. 解答
    4. 🧮 設問(4):遺伝学用語
      1. 解答
    5. 📈 設問(5):X遺伝子の役割
      1. 解答
    6. 🔬 設問(6):成体遺伝子機能解析方法
      1. 解答(4つの方法)
      2. 1. 時期特異的ノックアウト
      3. 2. RNAi(RNA干渉)
      4. 3. 阻害剤・中和抗体
      5. 4. ドミナントネガティブ
  4. 🧬 実験2:条件的ノックアウトマウス作製戦略
    1. 🔬 X-loxPマウスの作製
      1. 💡 実験戦略の解説
    2. 🧮 交配実験の遺伝学
      1. 🔄 マウス作製の手順
      2. 📊 遺伝学計算の詳細
    3. 🎯 組織特異的ノックアウト(XZ-KO)
      1. 💡 XZ-KOマウスの意義
  5. 📊 実験3:感染実験による生体内機能解析
    1. 🦠 αウイルス感染実験
      1. 📈 図3:生存率曲線の詳細解析
    2. 🔬 実験結果の生物学的意義
      1. 🎯 各群の結果から読み取れること
      2. 💡 X遺伝子の機能推定
  6. 🎯 解答戦略と攻略法
    1. ⏰ 時間配分戦略
      1. 📊 推奨時間配分(全体150分想定)
    2. 📚 必要な基礎知識チェックリスト
      1. 🦠 免疫学
      2. 🧬 分子生物学
      3. 🧮 遺伝学
    3. ✍️ 記述問題攻略法
      1. 📝 効果的な記述の手順
    4. 🎯 合格への最終アドバイス
      1. 💡 さらなる学習のために

📋 問題概要と全体構造

🎯 問題の構成と出題意図

この問題は免疫学・分子生物学・遺伝学の知識を統合的に問う高度な応用問題です。 単なる暗記ではなく、実験デザインの理解と科学的思考力が試されています。

🦠 免疫学分野

  • 自然免疫 vs 獲得免疫
  • 抗原提示メカニズム
  • T細胞・B細胞の機能
  • ウイルス感染への応答

🧬 分子生物学分野

  • 三ドメイン分類体系
  • Cre-loxPシステム
  • 遺伝子機能解析
  • 抗原プロセシング

🧮 遺伝学分野

  • メンデルの法則応用
  • 交配実験設計
  • 確率計算
  • ノックアウトマウス作製

📖 問題文の詳細解析

免疫系は自己と非自己を認識し、病原体などの有害な非自己を排除する生体防御システムである。 ヒトは進化の過程で、非常に高度な免疫システムを発達させてきた。

💡 導入部分の解説

この導入文は免疫系の基本定義を示しています。重要なのは:

  • 自己 vs 非自己の認識:免疫学の最基本概念
  • 病原体の排除:免疫系の主要機能
  • 進化的発達:後の分類体系への伏線

🔬 実験の背景設定

研究対象:αウイルスに対する免疫応答

主要登場人物:免疫学者(あなた)

発見:JAWSII細胞のX遺伝子が抗原プロセシングに重要

研究課題:細胞株での結果を生体レベルで検証

🎮 問題の難易度分析

設問 分野 難易度 配点予想 重要度
(1) 空欄補充A~G 基礎知識 ★★☆ 14点 基本
(2) ドメイン推定 データ解釈 ★★★ 15点
(3) Y遺伝子例示 分子生物学 ★★★ 15点
(4) 空欄イ~ニ 遺伝学 ★★★ 8点
(5) X遺伝子役割 総合判断 ★★★★ 20点 最高
(6) 解析方法4つ 実験デザイン ★★★★★ 28点 最高

🔬 実験1:Cre-loxPシステムの詳細解析

⚙️ Cre-loxPシステムの原理

Cre-loxPシステムは部位特異的組換えにより、特定の遺伝子領域を削除できる革新的技術です。 バクテリオファージP1由来のCreリコンビナーゼが、loxP配列を認識して組換えを実行します。

🔄 Cre-loxPシステムの詳細メカニズム

1 loxP配列の設計・挿入
削除したいエキソンの両端に34塩基対のloxP配列を挿入。loxPは左右の配向性を持つ。
2 Creリコンビナーゼの発現
組織特異的プロモーターまたは薬剤誘導プロモーターによりCre遺伝子を発現制御。
3 部位特異的組換え実行
Creが2つのloxP配列を認識し、相同組換えにより間の配列を環状DNAとして除去。
4 結果確認
1つのloxP配列(scar sequence)が残存し、目的エキソンの完全削除が完了。

🧪 JAWSII細胞を用いた機能解析実験

📊 実験デザインの詳細

使用細胞:JAWSII(マウス樹状細胞由来株化細胞)

実験目的:X遺伝子のどのエキソンが機能に重要かを特定

方法:各エキソン欠損変異体の強制発現 + DQ-OVA取り込み実験

評価指標:蛍光強度(抗原プロセシング能力の指標)

DQ-OVAの原理:OVAタンパク質をDQ色素で標識した基質。 プロテアーゼにより分解されると消光が解除され蛍光を発する。 蛍光強度が高い = 抗原プロセシング能力が高い。

🎯 実験の工夫点

  • フレームシフト回避:エキソン削除時にフレームシフトが起こらないよう設計
  • 発現量統一:WT・変異体の発現量をほぼ等しく調整
  • 内在性遺伝子の無視:強制発現により内在性X遺伝子の影響を排除
  • 定量解析:平均蛍光強度による客観的評価

📈 図2B:蛍光強度データの詳細解釈

📊 データ読み取りのポイント

条件 蛍光強度 有意差 解釈
WT(野生型) 約2500 基準値(100%活性)
Δ1(エキソン1欠損) 約2400 NS 機能に非必須
Δ2(エキソン2欠損) 約1500 * 機能に重要(40%減少)
Δ3(エキソン3欠損) 約1000 * 機能に重要(60%減少)
統計学的解釈:*マークは p < 0.05の有意差を示す。 NSは not significant(有意差なし)。 Δ2、Δ3の有意な蛍光減少により、エキソン2・3が機能ドメインをコードすると結論。

✅ 設問(2)の解答

推定エキソン:エキソン2および3

根拠(100字以内)

図2BでΔ2およびΔ3変異体において蛍光強度が野生型と比較して有意に低下している。 これはエキソン2と3が抗原プロセシング機能に必須のドメインをコードしていることを示している。(99字)

✅ 全問題解答一覧

📝 設問(1):空欄A~G

解答

  • A:真核生物
  • B:原核生物
  • C:バクテリア(細菌)
  • D:アーキア(古細菌)
  • E:三ドメイン
  • F:自然(先天性)
  • G:獲得(適応)

📊 設問(2):ドメイン推定

解答

推定エキソン:エキソン2および3

根拠:図2BでΔ2およびΔ3変異体において蛍光強度が野生型と比較して有意に低下している。 これはエキソン2と3が抗原プロセシング機能に必須のドメインをコードしていることを示している。

🧬 設問(3):Y遺伝子例示

解答

Y遺伝子例:β-actin遺伝子

理由:β-actin遺伝子は全ての細胞で恒常的に発現するため、そのプロモーターを利用することで 全身の細胞でCre遺伝子が発現し、全細胞でのX遺伝子エキソン欠損が可能となる。

🧮 設問(4):遺伝学用語

解答

  • :ヘテロ
  • :ホモ
  • :1
  • :3

📈 設問(5):X遺伝子の役割

解答

着目点:X-KOマウスが早期に全て死亡し、XZ-KOマウスも野生型より高い死亡率を示した。

X遺伝子の役割:X遺伝子はαウイルス感染に対する免疫応答において必須の役割を担う。 全身でのX遺伝子欠損により抗原プロセシング能力が失われ、ウイルス特異的T細胞の活性化が阻害される結果、 感染ウイルスを排除できず致死的となる。特にZ細胞での機能が重要である。

🔬 設問(6):成体遺伝子機能解析方法

解答(4つの方法)

1. 時期特異的ノックアウト

方法:薬剤誘導性Creシステム(Cre-ERT2など)を使用

原理:任意の時期に薬剤投与でCre活性化、成体での遺伝子欠損

2. RNAi(RNA干渉)

方法:siRNAやshRNAによる遺伝子発現抑制

原理:mRNAを特異的に分解し、タンパク質産生を阻害

3. 阻害剤・中和抗体

方法:特異的阻害剤や中和抗体の投与

原理:タンパク質の機能を直接的に阻害

4. ドミナントネガティブ

方法:機能欠失変異体の過剰発現

原理:正常タンパク質と競合し機能を阻害

🧬 実験2:条件的ノックアウトマウス作製戦略

🔬 X-loxPマウスの作製

実験1の結果を基に、機能重要エキソンの両端にloxP配列を挿入したマウス(X-loxPマウス)を作製。 このマウスは正常だが、Creが発現すると目的エキソンが削除される。

💡 実験戦略の解説

実験1で特定された重要エキソン(2または3)の両端にloxP配列を挿入。 これにより、Cre発現時に特定のエキソンのみを削除可能となる。

🧮 交配実験の遺伝学

🔄 マウス作製の手順

1 Y-Creマウスの準備
Y遺伝子プロモーター下流にCre遺伝子を挿入。Y遺伝子は組織特異的に発現。
2 ヘテロ接合体維持の必要性
Cre挿入によりY遺伝子が破壊されるため、ヘテロ接合体として維持。
3 交配実験実行
Y-Cre(ヘテロ)× X-loxP(ホモ)→ F1の一部がCre保有
4 最終交配
F1(Cre保有)× X-loxP(ホモ)→ X-KOマウス誕生

📊 遺伝学計算の詳細

Y-Cre(Aa)× X-loxP(bb)

F1:Ab : ab = 1 : 1

F1(Ab)× X-loxP(bb)

Abb : abb = 1 : 1
両方の染色体のX遺伝子にloxP配列が挿入された個体と、 Cre遺伝子を持つ個体の交配により、 両染色体でX遺伝子が欠損した個体(X-KO)が1/4の確率で誕生。

🎯 組織特異的ノックアウト(XZ-KO)

💡 XZ-KOマウスの意義

X遺伝子がZ細胞で高発現していることから、Z細胞特異的にX遺伝子を欠損させたマウスも作製。 これにより、特定の細胞種におけるX遺伝子の役割を解析可能。

  • 全身ノックアウト(X-KO):全細胞でX遺伝子欠損
  • 組織特異的ノックアウト(XZ-KO):Z細胞のみでX遺伝子欠損
  • 比較解析:両者の比較により、X遺伝子の組織特異的機能を解明

📊 実験3:感染実験による生体内機能解析

🦠 αウイルス感染実験

作製した各種マウス(WT、X-KO、XZ-KO)にαウイルスを感染させ、 生存率を解析することでX遺伝子の生体内での重要性を検証。

📈 図3:生存率曲線の詳細解析

マウス群 10日後生存率 死亡パターン 解釈
感染なし野生型 100% 死亡なし 対照群(正常状態)
感染野生型 約30% 緩やかな減少 ウイルス自体の病原性
感染X-KOマウス 0% 急速な死亡 免疫応答完全欠失
感染XZ-KOマウス 約10% 中程度の減少 部分的免疫不全
Kaplan-Meier生存曲線の読み方: 縦軸は生存率(%)、横軸は感染後日数。 曲線の傾きが急 = 死亡速度が速い。 最終的な生存率 = ウイルスに対する抵抗性。

🔬 実験結果の生物学的意義

🎯 各群の結果から読み取れること

1 野生型マウス(感染あり)
約30%生存 → αウイルス自体に致死性があることを確認。正常な免疫応答でも完全防御は困難。
2 X-KOマウス
全個体死亡 → X遺伝子は生存に絶対必要。抗原プロセシング能力の完全喪失により免疫応答が破綻。
3 XZ-KOマウス
中間的死亡率 → Z細胞でのX遺伝子機能が重要だが、他の細胞での機能も存在。
4 感染なし野生型
100%生存 → 対照群として実験の妥当性を保証。

💡 X遺伝子の機能推定

実験結果から、X遺伝子は以下の機能を持つと推定される:

  • 抗原プロセシング:ウイルスタンパク質の分解に必須
  • 免疫応答の活性化:T細胞への抗原提示に重要
  • 感染防御:ウイルス感染に対する生体防御に必須
  • 組織特異性:特にZ細胞での機能が重要

🎯 解答戦略と攻略法

⏰ 時間配分戦略

📊 推奨時間配分(全体150分想定)

設問 推奨時間 難易度 戦略
(1) 空欄A~G 5分 速攻で済ませる
(2) ドメイン推定 10分 図をしっかり読み取る
(3) Y遺伝子 15分 理由付けを丁寧に
(4) 遺伝学計算 10分 計算ミスに注意
(5) X遺伝子役割 20分 論理的構成重視
(6) 解析方法4つ 30分 最難 多角的思考が必要

📚 必要な基礎知識チェックリスト

🦠 免疫学

  • 自然免疫 vs 獲得免疫
  • 抗原提示機構
  • T細胞・B細胞の機能
  • MHC分子の種類
  • 樹状細胞の役割

🧬 分子生物学

  • 三ドメイン分類
  • Cre-loxPシステム
  • 遺伝子ノックアウト
  • 抗原プロセシング
  • 遺伝子発現制御

🧮 遺伝学

  • メンデルの法則
  • 交配実験設計
  • 確率計算
  • ヘテロ・ホモ接合体
  • 組換え頻度

✍️ 記述問題攻略法

📝 効果的な記述の手順

1 問題要求の正確な把握
字数制限、求められている内容(現象説明・原因分析・方法提案など)を明確化
2 論理構成の設計
結論→根拠、または原因→結果の流れで構成を決定
3 科学用語の適切な使用
専門用語を正確に使用し、必要に応じて説明も併記
4 字数調整と推敲
要点を漏らさず、制限字数内で簡潔に表現
頻出減点要因: 用語の誤用、論理的飛躍、字数オーバー、 問題の要求と異なる内容、根拠不明確な主張

🎯 合格への最終アドバイス

この問題の本質:単なる暗記ではなく、実験デザインの理解と科学的思考力が問われています。

重要な心構え

  • 実験の目的と方法を常に意識する
  • データから論理的に結論を導く力を養う
  • 複数の知識分野を統合的に活用する
  • 記述では科学的根拠を明示する

💡 さらなる学習のために

この問題レベルをマスターするには:

  • 論文読解:免疫学・分子生物学の原著論文を読む
  • 実験思考:なぜその実験が必要か、他の方法はないかを考える
  • 統合学習:異なる分野の知識を関連付けて理解する
  • アウトプット練習:説明・記述能力を向上させる

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