🧪 鹿児島大学2023年 第1問 完全解答解説
📋 問題概要と全体構造
🎯 問題の構成と出題意図
🔬 物質の状態
- 物質の三態(相)
- 同素体の概念
- 相転移と状態変化
- 分子間相互作用
🧪 分離・精製技術
- 古典的分離操作
- クロマトグラフィー
- イオン交換原理
- pH効果の応用
🧬 タンパク質化学
- 等電点(pI)の概念
- pH依存的電荷変化
- 分子量による分離
- 透析と限外ろ過
📊 問題の難易度分析
設問 | 分野 | 難易度 | 配点予想 | 重要度 |
---|---|---|---|---|
問1-9(空欄補充) | 基礎知識 | ★★☆ | 36点 | 基本 |
問10(分離方法) | 実験設計 | ★★★★ | 30点 | 最高 |
問11(濃度計算) | 定量解析 | ★★★ | 15点 | 高 |
問12(トラブル分析) | 実験考察 | ★★★ | 19点 | 高 |
🧮 タンパク質情報の整理
📈 各タンパク質の特性
タンパク質 | 分子量 | pI値 | pH6.0での電荷 | pH8.0での電荷 | pH8.7での電荷 |
---|---|---|---|---|---|
A | 50,000 | 4.2 | 負 | 負 | 負 |
B | 93,000 | 5.0 | 負 | 負 | 負 |
C | 80,000 | 7.1 | 正 | 負 | 負 |
D(目的物) | 60,000 | 8.2 | 正 | 正 | 負 |
📚 基礎理論と概念解説
🔬 物質の状態と相の概念
📝 基本概念の整理
固体・液体・気体は物質の相(phase)と呼ばれる。 相とは、物理的・化学的性質が均一で、他の部分と明確な境界を持つ領域。
同一元素から構成されるが、原子の配列が異なる物質。 炭素の場合:ダイヤモンド(sp³混成)、グラファイト(sp²混成)
純物質でも混合物でも、均一で境界を持つ状態は「相」として扱う。 例:水と油の二相系、合金の固相など
💡 同素体の性質比較
- ダイヤモンド:硬度最大、絶縁体、透明、密度3.52 g/cm³
- グラファイト:軟質、導電性、黒色、密度2.26 g/cm³
- 結合の違い:分子構造の差が物性の大きな違いを生む
⚗️ 古典的分離操作
🌡️ 蒸留
原理:沸点の違いを利用
例:アルコールの精製、石油分留
適用:揮発性の違いがある混合物
❄️ 昇華
原理:固体から直接気体への変化
例:ナフタレンの精製、ヨウ素の精製
適用:昇華性物質の分離
💎 結晶化
原理:溶解度の温度依存性
例:食塩の精製、硫酸銅の結晶化
適用:溶解度に差がある混合物
✅ 問4の解答例
蒸留(例:エタノールと水の混合物を加熱し、沸点の違いを利用してエタノールを分離)
昇華(例:ナフタレンと食塩の混合物を加熱し、ナフタレンのみを昇華させて分離)
結晶化(例:硝酸カリウムと塩化ナトリウムの混合物を温水に溶かし、冷却して硝酸カリウムを析出)
🔄 イオン交換クロマトグラフィー
(A:初期結合イオン、E:交換体、B:試料イオン)
🔬 陰イオン交換の原理
イオン交換樹脂は溶媒に不溶でなければならない。 溶解すると分離が不可能になる。
陰イオン交換にはアニオン(負電荷)となりうる官能基が必要。 例:-COO⁻、-SO₃⁻、-PO₄³⁻など
pHを高くすると、タンパク質がより負に帯電し、 イオン交換体からの溶出が促進される。
🧪 実験設計と分離戦略
🎯 タンパク質D分離の基本戦略
🔄 分離プロセスの設計
pH6.0では:A,B(負)、C,D(正)→ C,Dが陰イオン交換カラムを素通り
この段階でA,Bを除去可能
pH8.0では:A,B,C(負)、D(微妙に正)→ DをCから分離
pH8.7では:A,B,C,D全て(負)→ 全て結合
塩濃度勾配またはpH勾配により、結合力の違いを利用して分離
透析膜(分子量カットオフ20,000)を使用して濃縮
📋 詳細実験手順
🔬 推奨プロトコル(750字以内)
💡 問10の解答
原理:等電点の違いを利用したpH依存的分離とイオン交換クロマトグラフィーの組み合わせ
手順:
①水溶液X(pH8.0)をMES緩衝液(pH6.0)で希釈し、pH6.0に調整。この条件でA,B(pI 4.2,5.0)は負電荷、C,D(pI 7.1,8.2)は正電荷となる。
②調整した溶液を陰イオン交換カラムに通す。負電荷のA,Bは樹脂に結合し、正電荷のC,Dは素通りする。
③素通り液をTris緩衝液(pH8.0)で希釈してpH8.0に調整。この条件でCは負電荷、Dは微妙に正電荷(pI8.2のため)となる。
④再度陰イオン交換カラムに通し、負電荷のCは結合、Dは素通りする。
⑤D含有溶液を透析膜(分子量カットオフ20,000)に入れ、蒸留水中で透析して塩を除去しつつ濃縮する。
根拠:等電点付近では電荷が最小となるため、イオン交換樹脂との相互作用が弱くなり選択的分離が可能。透析により最終的な精製と濃縮を達成する。
📊 濃度計算と理論的限界
🧮 問11の解答
透析後最小体積:約1mL(透析膜の物理的限界)
理論的濃縮倍率:100倍
✅ 最高濃度の推定
透析膜を用いた濃縮により、理論的には100倍程度の濃縮が可能。 ただし、タンパク質の溶解度限界や凝集による沈殿を考慮すると、 実際には20〜50倍程度の濃縮が限界と考えられる。(99字)
⚠️ 期待通りの効果が得られない原因
🔍 問12の解答
考えられる原因:
- pH緩衝能力不足によるpH変動
- タンパク質の非特異的吸着
- イオン交換容量の不足
- タンパク質の凝集や変性
- 透析膜の目詰まり
✅ 100字以内の解答
pH調整不良による電荷状態の変化、タンパク質の器具への非特異的吸着、 イオン交換容量不足、タンパク質凝集による沈殿、透析膜の目詰まりなどが考えられる。(95字)
✅ 全問題解答一覧
📝 基本知識問題(問1〜9)
問1:Q1
答:相
物質の三つの形態は「相」と呼ばれる
問2:Q2
答:同素体
ダイヤモンドとグラファイトは炭素の同素体。原子配列が異なり、物理的・化学的・電気的性質に大きな違いがある。
問3:Q3
答:相
均一で境界を持つ状態を表す概念
問4:Q4
答:蒸留
(例)エタノールと水の混合物を加熱し、沸点の違いを利用してエタノールを分離
問5:Q5
答:精製
不要・有害成分を分離して純度を上げる操作
問6:Q6
答:イオン交換
イオン間の可逆的交換反応
問7:Q7
答:不溶性
イオン交換体は溶媒に溶解してはならない
問8:Q8
答:アニオン
陰イオン交換には負電荷の官能基が必要
問9:Q9
答:高く
pHを高くすると負電荷が増加し溶出が促進
🧪 応用問題(問10〜12)
✅ 問10:分離方法(750字以内)
原理:等電点の違いを利用したpH依存的分離とイオン交換クロマトグラフィーの組み合わせ
手順:①水溶液X(pH8.0)をMES緩衝液(pH6.0)で希釈し、pH6.0に調整。この条件でA,B(pI 4.2,5.0)は負電荷、C,D(pI 7.1,8.2)は正電荷となる。②調整した溶液を陰イオン交換カラムに通す。負電荷のA,Bは樹脂に結合し、正電荷のC,Dは素通りする。③素通り液をTris緩衝液(pH8.0)で希釈してpH8.0に調整。この条件でCは負電荷、Dは微妙に正電荷(pI8.2のため)となる。④再度陰イオン交換カラムに通し、負電荷のCは結合、Dは素通りする。⑤D含有溶液を透析膜(分子量カットオフ20,000)に入れ、蒸留水中で透析して塩を除去しつつ濃縮する。
根拠:等電点付近では電荷が最小となるため、イオン交換樹脂との相互作用が弱くなり選択的分離が可能。透析により最終的な精製と濃縮を達成する。
✅ 問11:最高濃度(100字以内)
透析膜を用いた濃縮により、理論的には100倍程度の濃縮が可能。ただし、タンパク質の溶解度限界や凝集による沈殿を考慮すると、実際には20〜50倍程度の濃縮が限界と考えられる。(99字)
✅ 問12:濃縮効果が得られない理由(100字以内)
pH調整不良による電荷状態の変化、タンパク質の器具への非特異的吸着、イオン交換容量不足、タンパク質凝集による沈殿、透析膜の目詰まりなどが考えられる。(95字)
🎯 攻略戦略と解答のコツ
⏰ 時間配分戦略
📊 推奨時間配分(全体90分想定)
設問 | 推奨時間 | 難易度 | 戦略 |
---|---|---|---|
問1-9 | 15分 | 易 | 基本知識で素早く解答 |
問10 | 40分 | 難 | 論理構成を重視 |
問11 | 15分 | 中 | 計算と根拠を明確に |
問12 | 15分 | 中 | 実験経験を活かす |
見直し | 5分 | – | 誤字・脱字チェック |
📚 必要な基礎知識チェックリスト
🔬 物理化学
- 物質の三態と相転移
- 同素体の概念と例
- 分子間相互作用
- 溶解度と濃度
🧪 分析化学
- クロマトグラフィー原理
- イオン交換機構
- pH効果とバッファー
- 分離・精製操作
🧬 生化学
- タンパク質の等電点
- pH依存的電荷変化
- 透析と限外ろ過
- タンパク質の性質
✍️ 記述問題攻略法
📝 効果的な記述の手順
字数制限、求められている内容(原理・手順・根拠)を明確化
原理→手順→根拠の流れで構成。または問題→解決策の順序
専門用語を正確に使用し、必要に応じて簡潔な説明も併記
要点を漏らさず、制限字数内で簡潔に表現
🎯 合格への最終アドバイス
この問題の本質:理論知識と実験技術の統合的理解が問われています。
重要な心構え:
- 基礎理論を実験に応用する思考力
- 複数の分離技術を組み合わせる発想
- 実験条件の最適化を考える能力
- トラブル要因を多角的に分析する視点
💡 さらなる学習のために
この問題レベルをマスターするには:
- 実験書の精読:分離・精製の実験手順を理解
- 原理の理解:なぜその操作が必要かを考える
- 条件最適化:パラメータ変更の効果を予測
- トラブル対策:実験がうまくいかない原因を考察