はじめに:英語学習で挫折する前に知っておきたいこと
前回は生物学習の基礎固めについて解説した。今回は、TOEIC600点レベルから医学部編入試験に対応できる英語力を効率的に習得する戦略を解説する。
「医学部編入試験の英語は難しそう…」と思う人も多いだろう。確かにNature、Science、NEJM、Lancetなどの一流ジャーナルから出題される。しかし、これらの専門英文も結局は中学・高校英語の応用に過ぎない。焦って難しい教材に手を出すより、段階的に学力を積み上げる方が確実である。
英語学習の基本原理:なぜ順番が大切なのか
理解できるレベルから始める重要性
言語学習には「現在の能力よりわずかに高いレベル」で学習するのが最も効果的だという研究結果がある。TOEIC600点の人がいきなり医学論文に挑戦するのは、中学生がいきなり大学数学に挑むようなものである。
英語が「自然に」読めるようになるメカニズム
最初は一語一語を辞書で調べながら読んでいた英文も、慣れてくると日本語と同じように「流れるように」理解できるようになる。これは脳が英語処理を自動化するためだ。この自動化を促すには、適切なレベルで大量の英文に触れることが欠かせない。
段階別英語学習戦略:着実にレベルアップする方法
第1段階:精読力の構築(1-3ヶ月目)
まずは英文をきちんと読める力をつける
TOEIC600点の人は基本的な単語と文法は身についているが、複雑な英文を正確に読む力がまだ不十分である。ここで活用したいのが『ポレポレ英文読解プロセス50』だ。
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この教材を選ぶ理由は以下の通りである:
- 50題という取り組みやすい分量
- 段階的に難易度が上がる構成
- 「なぜそう読むのか」のプロセスが明確
もちろん他の選択肢もある。『入門英文解釈の技術100』はより詳しいが分量が多く、『合格へ導く英語長文Rise構文解釈』は質が高いがやや難しい。自分の時間と能力に合わせて選べばよい。
第2段階:多読で英語に慣れる(2-6ヶ月目)
とにかく英文をたくさん読む段階
精読力がついたら、今度は「量」を重視する。同じ単語に何度も出会うことで記憶に定着し、様々な文脈で使われる表現を自然に身につけることができる。
おすすめ教材
- TOEIC公式問題集:どうせ後でTOEICを受けるので一石二鳥
- システム英語長文:読解と語彙学習を同時に進められる
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学習のコツ
- 毎日1000語程度の英文を読む
- 知らない単語は文脈から推測してから辞書を引く
- 音源があるものは必ず聞く(音の情報も重要)
第3段階:リスニング能力を本格的に鍛える
なぜ聞き取れないのか?音の変化を理解する
「単語は知っているのに聞き取れない」という経験は誰にでもある。実は、話し言葉では音がつながったり省略されたりするため、文字で見る単語と音が大きく異なることが多い。
主な音の変化
- 音のつながり:「an apple」が「アナップル」のように聞こえる
- 音の同化:隣の音の影響で変化する
- 音の脱落:「must be」の「t」が聞こえないなど
- 音の弱化:「can」が「キャン」ではなく「カン」になる
これらの現象を理解するために『リスニングのお医者さん』を活用する。理論的な説明と実践練習がバランスよく構成されており、「なぜ聞き取れないのか」が明確になる。
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無料の優良コンテンツを活用する
British Council Learning Englishが特におすすめだ。以下の条件を満たしている:
- レベル別に分かれている
- 音声とスクリプトがセット
- 理解度を確認する問題付き
- 完全無料
効果的な学習手順
- まず何も見ずに聞いてみる
- 理解度確認問題を解く
- スクリプトを確認して音の変化をチェック
- 最後に音読練習
継続のコツ:習慣化が成功の鍵
リスニング学習で最も大切なのは毎日続けることだ。数日サボると驚くほど聞き取れなくなる。「入浴後の10分」など、生活リズムに組み込んでしまうのが一番である。
生成AI時代の英語学習:新しい可能性を活用する
ChatGPTで自分専用の学習教材を作る
今までは市販の教材に頼るしかなかったが、生成AIの登場で状況が一変した。自分の弱点や興味に合わせた学習コンテンツを簡単に作れるようになったのだ。
具体的な活用例
プロンプト例:
「TOEIC600点レベルの人向けに、心臓の働きについて説明する600語程度の英文を作ってください。高校英語レベルで、医学用語は5個程度含めてください。読解問題も3問つけてください。」
このように指示すれば、自分にぴったりの教材ができあがる。市販教材では不可能だった「個人最適化された学習」が現実になった。
AI活用の具体的テクニック
1. 語彙学習の効率化
「以下の医学用語を使った例文を、難易度別に3つずつ作ってください:
- cardiovascular(心血管の)
- respiratory(呼吸の)
- metabolism(代謝)
各例文に日本語訳と語源の説明もお願いします。」
2. 英作文の添削と改善 自分で書いた英文をAIに添削してもらえる。単純な文法ミスの指摘だけでなく、「より自然な表現」「より学術的な文体」への改善提案も受けられる。これは従来の学習では考えられなかった贅沢なサービスだ。
3. 音声認識による発音練習 最新のAI音声認識技術を使えば、自分の発音をネイティブスピーカーと比較して詳細な改善点を教えてもらえる。今まで専門の指導者が必要だった発音矯正が、一人でもできるようになった。
AI活用時の注意点:便利すぎるからこそ気をつけたいこと
AIは確かに便利だが、頼りすぎると思考力が衰える危険性がある。以下の点に注意したい:
- AIの答えを鵜呑みにしない:必ず自分で考えて検証する
- 基礎力は手を抜かない:AI頼みにする前に基本的な文法・語彙は確実に身につける
- 自分の理解度を把握する:AIに頼って「分かったつもり」にならない
学習スケジュールと目標設定:現実的なプランを立てる
6ヶ月で達成可能な目標
月別の学習計画
- 1-2ヶ月目:ポレポレで精読力をつける
- 3-4ヶ月目:毎日1000語の多読を開始
- 5-6ヶ月目:リスニング強化とTOEIC受験
具体的な数値目標
- 語彙力:3000語→5000語(医学系語彙500語を含む)
- 読解速度:150語/分→200語/分
- TOEIC得点:600点→720-800点
進歩を実感するための測定方法
自分の成長を「見える化」する
- 音読速度:同じ英文を月初と月末に音読して比較
- 要約能力:読んだ英文を日本語で要約する精度
- 語彙推測力:知らない単語を文脈から推測する成功率
数字で見えると達成感も得られるし、モチベーション維持にもつながる。
継続するためのメンタル面での工夫
「完璧主義」を捨てる勇気
英語学習で挫折する人の多くは完璧主義である。「今日は疲れているから明日まとめてやろう」「この単語が覚えられないから先に進めない」といった考えは禁物だ。
大切なのは継続すること。毎日10分でも続ける方が、週末に3時間まとめて勉強するより効果的である。
感情を排除して機械的にこなす
「今日は面倒くさい」「この問題は難しくて嫌だ」といった感情は学習の大敵である。歯磨きと同じように、考える前に体を動かす習慣をつけてしまおう。
具体的な工夫
- 学習開始時刻を固定する
- 教材を机の上に出しっぱなしにしておく
- スマホは別の部屋に置く
まとめ:着実な積み重ねが合格への近道
医学部編入試験の英語は、以下の原則を守れば必ず攻略できる:
成功の4原則
- 段階的学習:無理をせず現在のレベル+1で学習する
- 大量インプット:質より量、とにかく英語に触れる時間を増やす
- 継続的露出:毎日少しずつでも続ける
- AI技術の活用:新しいツールを使って効率を上げる
最も重要なポイント 英語力向上に魔法はない。投入した時間に比例して確実に伸びる。感情的な負担を減らし、淡々と継続することが成功の秘訣である。
次回は、生物学習の中級段階における専門書籍の使い方と、過去問を使った実戦的な対策について解説する。基礎固めが完了したら、いよいよ本格的な受験対策に入っていく段階である。
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