鹿児島大学医学部編入試験2024年第4問解説

🧬 鹿児島大学2024年 第4問 完全解答解説

遺伝暗号・変異・翻訳制御・酵素機能の総合問題を徹底攻略
  1. 📋 問題概要と全体構造
    1. 🎯 問題の構成と出題意図
      1. 🧬 遺伝学分野
      2. 🔬 分子生物学分野
      3. ⚙️ 生化学分野
    2. 📖 問題文の詳細解析
      1. 💡 問題設定の分析
      2. 📊 設問の構造分析
    3. 🎮 出題の核心
      1. 🎯 問題解決のアプローチ
  2. 🧬 遺伝暗号と変異の詳細解析
    1. 📚 遺伝暗号の基本性質
      1. 🔤 遺伝暗号表(重要部分抜粋)
      2. 💡 UAUからストップコドンへの変異解析
      3. ✅ 問題1の解答
    2. 🎯 変異の分類と特徴
      1. ナンセンス変異
      2. ミスセンス変異
      3. サイレント変異
  3. 🔬 翻訳制御機構の詳細解析
    1. ⚙️ Nonsense-Mediated Decay(NMD)の分子機構
      1. 🔄 NMDの詳細メカニズム
      2. 💡 NMDの生物学的意義
      3. 品質管理機能
      4. 遺伝子発現制御
      5. 🎯 NMDの効率に影響する因子
      6. ✅ 問題2の解答
    2. 🧬 NMDエスケープ機構
      1. 📊 部分タンパク質が合成される条件
  4. 🤫 サイレント変異の多面的効果
    1. 📖 サイレント変異の定義と分類
      1. 🔤 同義変異の例
      2. ✅ 問題3の解答
    2. ⚙️ サイレント変異が酵素活性に影響する分子機構
      1. 🎯 多様な影響機構
      2. 1. コドン使用頻度の影響
      3. 2. mRNA二次構造の変化
      4. 3. スプライシングの変化
      5. 4. miRNA結合部位の変化
      6. 🔬 コドン使用頻度による機構の詳細
      7. ✅ 問題4の解答
    3. 📊 サイレント変異の影響予測法
      1. 🔍 バイオインフォマティクス解析ツール
  5. ✅ 全問題解答一覧
    1. 📝 完全解答集
      1. 問題1. 変異の名称と変異後の塩基配列
      2. 問題2. 全く合成されない過程の名称と機構(200字以内)
      3. 問題3. アミノ酸配列置換を伴わない変異の名称
      4. 問題4. 酵素活性低下の分子機構(200字以内)
    2. 🎯 解答の詳細解説
      1. 問題1のポイント
      2. 問題2のポイント
      3. 問題3のポイント
      4. 問題4のポイント
    3. ⭐ 採点基準と部分点配分
      1. 📊 詳細な採点基準
  6. 🎯 解答戦略と攻略法
    1. ⏰ 時間配分戦略
      1. 📊 推奨時間配分(第4問:20分想定)
    2. 📚 必要な基礎知識チェックリスト
      1. 🧬 遺伝学
      2. 🔬 分子生物学
      3. ⚙️ 構造生物学
    3. ✍️ 論述問題攻略法
      1. 📝 効果的な論述の手順
      2. 💡 よくある解答の問題点と改善策
    4. 🎯 合格への最終アドバイス
      1. 💡 さらなる学習のために

📋 問題概要と全体構造

🎯 問題の構成と出題意図

この問題は分子生物学・遺伝学・生化学の知識を統合した高度な応用問題です。 遺伝暗号から酵素機能まで、タンパク質生合成の全過程にわたる理解が求められています。

🧬 遺伝学分野

  • 遺伝暗号の性質
  • 点変異の分類
  • ナンセンス変異
  • サイレント変異

🔬 分子生物学分野

  • 翻訳機構
  • mRNA品質管理
  • nonsense-mediated decay
  • RNA processing

⚙️ 生化学分野

  • 酵素の構造と機能
  • タンパク質フォールディング
  • 活性部位の形成
  • 立体構造と機能の関係

📖 問題文の詳細解析

タンパク質Pの一次構造において、そのN末端側約4分の1付近にあるTyr残基は、mRNA上でUAUとコードされている。この codon の中の1塩基が変異して stop codon となれば、本来合成されるはずのタンパク質Pの一部分(N末端側約4分の1)が合成されるか、あるいは全く合成されない。

💡 問題設定の分析

この問題は実際の遺伝病研究でよく見られるシナリオです:

  • UAU(Tyr)コドン:ティロシン残基をコードする2つのコドンの1つ
  • N末端側4分の1:タンパク質の機能ドメインが存在する可能性が高い領域
  • ストップコドン変異:ナンセンス変異による早期翻訳終了
  • 部分合成 vs 非合成:nonsense-mediated decayの有無による違い

📊 設問の構造分析

設問 分野 難易度 配点予想 重要度
問題1. 変異名称と変異後配列 基礎遺伝学 ★★☆ 10点 基本
問題2. 全く合成されない機構 分子生物学 ★★★★ 25点
問題3. サイレント変異名称 基礎遺伝学 ★★☆ 5点 基本
問題4. 酵素活性低下機構 生化学・構造生物学 ★★★★★ 25点 最高

🎮 出題の核心

統合的理解の重要性:この問題は単独の知識ではなく、 DNA→RNA→タンパク質→機能の全過程における相互関係の理解が求められています。 特に、配列変化が分子機能に与える影響の予測能力が重視されます。

🎯 問題解決のアプローチ

1 遺伝暗号の理解
UAUからストップコドンへの変異パターンを全て把握
2 翻訳制御機構の理解
nonsense-mediated decayの分子機構を詳細に理解
3 構造-機能相関の理解
サイレント変異が酵素活性に影響する多様な機構を把握

🧬 遺伝暗号と変異の詳細解析

📚 遺伝暗号の基本性質

遺伝暗号は64個のコドンで20種類のアミノ酸と3個のストップコドンを規定する 高度に最適化されたシステムです。その縮重性が進化的安定性を提供しています。

🔤 遺伝暗号表(重要部分抜粋)

コドン アミノ酸 1塩基変異の例 変異後コドン 変異の種類
UAU Tyr(チロシン) U→U、A→A、U→G UAG ナンセンス変異
UAU Tyr(チロシン) U→U、A→G、U→A UGA ナンセンス変異
UAU Tyr(チロシン) U→U、A→A、U→A UAA ナンセンス変異
UAU Tyr(チロシン) U→U、A→A、U→C UAC 同義変異

💡 UAUからストップコドンへの変異解析

UAU(Tyr)コドンから1塩基変異でストップコドンになる全パターン:

UAU → UAG(amber codon)
UAU → UGA(opal codon)
UAU → UAA(ochre codon)

このうち最も一般的なのはUAU → UAGの変異です。

✅ 問題1の解答

変異の名称:ナンセンス変異(nonsense mutation)

変異後の塩基配列(全て)

  • UAG(amber stop codon)
  • UGA(opal stop codon)
  • UAA(ochre stop codon)

🎯 変異の分類と特徴

ナンセンス変異

  • 意味コドン→ストップコドン
  • 早期翻訳終了
  • 短縮タンパク質生成
  • 機能完全喪失が多い

ミスセンス変異

  • アミノ酸→異なるアミノ酸
  • タンパク質長は正常
  • 機能への影響は様々
  • 保存的/非保存的変異

サイレント変異

  • 同じアミノ酸をコード
  • 一次構造は変化なし
  • RNA構造に影響の可能性
  • スプライシングに影響の可能性
変異の命名法:従来の「ナンセンス変異」に加えて、 現在では「ストップゲイン変異(stop-gain mutation)」という用語も使用されます。

🔬 翻訳制御機構の詳細解析

⚙️ Nonsense-Mediated Decay(NMD)の分子機構

NMDはmRNA品質管理機構の一つで、早期ストップコドンを含むmRNAを 検出・分解することで、異常タンパク質の蓄積を防ぐ重要なシステムです。

🔄 NMDの詳細メカニズム

1 エキソン結合複合体(EJC)の形成
スプライシング時にエキソン境界の約20-24塩基上流にEJCが結合
2 翻訳開始とEJC除去
リボソームの翻訳進行により正常な位置のEJCは順次除去される
3 早期ストップコドンの認識
正常終止コドンより上流でストップした場合、下流にEJCが残存
4 NMD因子の動員
UPF1, UPF2, UPF3等のNMD因子が残存EJCを認識
5 mRNA分解の実行
エンドヌクレアーゼによりmRNAが分解され、異常タンパク質産生を阻止

💡 NMDの生物学的意義

品質管理機能

  • 異常mRNAの除去
  • ドミナントネガティブ効果の防止
  • 細胞毒性の軽減
  • 翻訳リソースの節約

遺伝子発現制御

  • 生理的遺伝子制御
  • 選択的スプライシング制御
  • 発生・分化過程の調節
  • ストレス応答の調節

🎯 NMDの効率に影響する因子

因子 影響 メカニズム 臨床的意義
ストップコドンの位置 上流ほど高効率 より多くのEJCが下流に残存 重篤度の予測
下流エキソンの有無 あると高効率 EJC結合部位の存在 変異の表現型予測
3’UTRの長さ 長いと高効率 EJC除去の不完全性 疾患重篤度の修飾
細胞種 組織特異性あり NMD因子発現レベル 組織特異的症状

✅ 問題2の解答

過程の名称:Nonsense-mediated decay(NMD)

機構(200字以内):早期ストップコドンを含むmRNAはスプライシング時に形成されたエキソン結合複合体(EJC)をリボソームが除去しきれずに翻訳終了する。下流に残存したEJCをNMD因子(UPF1等)が認識し、mRNAを異常と判定して分解酵素を動員する。その結果、異常mRNAが除去され短縮タンパク質の合成が阻止される。(194字)

🧬 NMDエスケープ機構

📊 部分タンパク質が合成される条件

問題文にある「一部分が合成される」場合は、NMDが効率的に働かない状況を指します。

1 最終エキソン内のストップコドン
最終エキソン内の変異ではEJCが下流にないためNMDが働かない
2 NMD因子の発現低下
特定の細胞種や条件下でNMD効率が低下
3 翻訳再開(reinitiation)
下流のAUGから翻訳が再開される場合
4 リードスルー変異
tRNAの誤読によりストップコドンを読み飛ばし

🤫 サイレント変異の多面的効果

📖 サイレント変異の定義と分類

サイレント変異(同義変異)はアミノ酸配列を変えない変異ですが、 実際には多様な分子機能に影響を与える「サイレントでない」効果を持ちます。

🔤 同義変異の例

アミノ酸 コドン1 コドン2 使用頻度差 tRNA存在量差
Leu UUA UUG 低 vs 高 少 vs 多
Ser UCG UCC 低 vs 高 少 vs 多
Arg CGA CGU 低 vs 高 少 vs 多

✅ 問題3の解答

変異の名称:サイレント変異(silent mutation)

または:同義変異(synonymous mutation)

⚙️ サイレント変異が酵素活性に影響する分子機構

🎯 多様な影響機構

1. コドン使用頻度の影響

  • 翻訳速度の変化
  • ribosome pausingの発生
  • co-translational foldingの変化
  • タンパク質立体構造の変化

2. mRNA二次構造の変化

  • ステムループ構造の形成/破綻
  • 翻訳効率の変化
  • mRNA安定性の変化
  • リボソーム結合の阻害

3. スプライシングの変化

  • exonic splicing enhancer破綻
  • cryptic splice site活性化
  • エキソン欠失
  • 異常スプライシング産物

4. miRNA結合部位の変化

  • miRNA標的部位の創出/破綻
  • 翻訳抑制の変化
  • mRNA分解の変化
  • 遺伝子発現量の変化

🔬 コドン使用頻度による機構の詳細

1 rare codonの出現
低頻度コドンへの変異により対応tRNAが不足
2 ribosome pausing
翻訳の一時停止により新生ペプチドの折り畳み時間が変化
3 co-translational folding変化
異なる折り畳み経路により別の立体構造を形成
4 酵素活性の変化
活性部位の微細構造変化により基質結合能や触媒活性が低下
臨床的重要性:サイレント変異も疾患の原因となり得ることが 近年明らかになっており、遺伝子診断では同義変異も慎重に評価されています。

✅ 問題4の解答

分子機構(200字以内):サイレント変異により低頻度コドンが生じると対応tRNAが不足し翻訳が一時停止する。このribosome pausingにより新生ペプチドの共翻訳的折り畳み過程が変化し、正常とは異なる立体構造を形成する。その結果、活性部位の微細構造が変化して基質結合能や触媒効率が低下し、酵素活性の減少を引き起こす。(196字)

📊 サイレント変異の影響予測法

🔍 バイオインフォマティクス解析ツール

解析項目 使用ツール 評価内容 予測精度
コドン使用頻度 CAI, RSCU 翻訳効率の変化
mRNA二次構造 RNAfold, Mfold 構造安定性の変化
スプライシング MaxEntScan, RESCUE スプライス部位強度
miRNA結合 TargetScan, miRanda 標的部位の予測

✅ 全問題解答一覧

📝 完全解答集

問題1. 変異の名称と変異後の塩基配列

変異の名称:ナンセンス変異(nonsense mutation)

変異後の塩基配列(全て)

  • UAG(amber stop codon)
  • UGA(opal stop codon)
  • UAA(ochre stop codon)

問題2. 全く合成されない過程の名称と機構(200字以内)

過程の名称:Nonsense-mediated decay(NMD)

機構:早期ストップコドンを含むmRNAはスプライシング時に形成されたエキソン結合複合体(EJC)をリボソームが除去しきれずに翻訳終了する。下流に残存したEJCをNMD因子(UPF1等)が認識し、mRNAを異常と判定して分解酵素を動員する。その結果、異常mRNAが除去され短縮タンパク質の合成が阻止される。(194字)

問題3. アミノ酸配列置換を伴わない変異の名称

変異の名称:サイレント変異(silent mutation)

または:同義変異(synonymous mutation)

問題4. 酵素活性低下の分子機構(200字以内)

分子機構:サイレント変異により低頻度コドンが生じると対応tRNAが不足し翻訳が一時停止する。このribosome pausingにより新生ペプチドの共翻訳的折り畳み過程が変化し、正常とは異なる立体構造を形成する。その結果、活性部位の微細構造が変化して基質結合能や触媒効率が低下し、酵素活性の減少を引き起こす。(196字)

🎯 解答の詳細解説

問題1のポイント

  • 3種類のストップコドン全て記載
  • 「ナンセンス変異」の正確な用語使用
  • 遺伝暗号の縮重性理解
  • 変異の系統的分類

問題2のポイント

  • NMDの分子機構の正確な理解
  • EJCの役割
  • UPF因子の機能
  • mRNA品質管理の生物学的意義

問題3のポイント

  • 基本的な変異分類の理解
  • 「サイレント」の意味
  • 同義変異との関係
  • 遺伝暗号の縮重性

問題4のポイント

  • co-translational foldingの理解
  • コドン使用頻度の生物学的意義
  • 構造-機能相関
  • 最新の分子生物学知見

⭐ 採点基準と部分点配分

📊 詳細な採点基準

問題 満点 部分点の基準 減点要因
問題1 10点 名称5点+配列5点(1つにつき約1.7点) 配列の不正確、変異名称の誤り
問題2 25点 名称8点+機構17点 字数超過、機構説明の不正確
問題3 5点 「同義」等の類似表現で3点 全く的外れな変異名
問題4 25点 機構理解20点+表現5点 co-translational folding言及なし
高得点のコツ:単なる現象の記述ではなく、分子レベルでの 詳細な機構を段階的に説明することが重要です。特に最新の知見 (co-translational folding等)を含めることで差別化できます。

🎯 解答戦略と攻略法

⏰ 時間配分戦略

📊 推奨時間配分(第4問:20分想定)

段階 所要時間 内容 重要度
問題文理解 2分 設定の把握、用語の確認 ★★★
問題1解答 3分 遺伝暗号表の確認 ★★☆
問題2解答 8分 NMD機構の詳細説明 ★★★★★
問題3解答 1分 基本用語の記載 ★★☆
問題4解答 6分 co-translational folding機構 ★★★★★
時間配分の要点:問題2と4が配点の大部分を占めるため、 これらに重点的に時間を配分し、分子機構を詳細に記述することが重要です。

📚 必要な基礎知識チェックリスト

🧬 遺伝学

  • 遺伝暗号表の完全記憶
  • 変異の分類(ナンセンス、ミスセンス、サイレント)
  • ストップコドンの種類と性質
  • 遺伝暗号の縮重性
  • 変異の命名法

🔬 分子生物学

  • 翻訳機構の詳細
  • mRNA processing
  • EJC(エキソン結合複合体)
  • Nonsense-mediated decay
  • コドン使用頻度の生物学的意義

⚙️ 構造生物学

  • co-translational folding
  • タンパク質の階層構造
  • 酵素の活性部位
  • 構造-機能相関
  • 分子シャペロン

✍️ 論述問題攻略法

📝 効果的な論述の手順

1 分子レベルでの機構理解
DNA→RNA→タンパク質の各段階での詳細な分子機構を把握
2 因果関係の明確化
変異→分子変化→機能変化の論理的流れを構築
3 専門用語の正確な使用
EJC、NMD、co-translational folding等の用語を適切に使用
4 簡潔で論理的な表現
字数制限内で要点を漏らさず記述

💡 よくある解答の問題点と改善策

問題点 具体例 改善策
機構の説明が浅い 「mRNAが分解される」 EJC、UPF因子の役割を詳述
因果関係が不明確 「構造が変わって活性低下」 ribosome pausingの機構から説明
専門用語の誤用 「翻訳エラー」 正確な分子生物学用語を使用
最新知見の欠如 古典的な説明のみ co-translational folding等を含める

🎯 合格への最終アドバイス

この問題の本質:分子生物学の基礎から最新知見まで、幅広い理解と統合的思考力が問われています。

重要な心構え

  • 遺伝暗号から酵素機能まで一貫した理解
  • 分子レベルでの詳細な機構理解
  • 最新の研究成果を含む現代的視点
  • 現象と機構を結ぶ論理的思考力

💡 さらなる学習のために

この問題レベルをマスターするには:

  • 最新教科書:Molecular Biology of the Cell等で最新知見を学習
  • 原著論文:Nature, Cell等のNMD・co-translational folding関連論文
  • 遺伝病データベース:ClinVar等で変異の臨床的意義を理解
  • 構造生物学:タンパク質の立体構造と機能の関係を深く学習
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