⚡ 鹿児島大学2024年 第1問 完全解答解説
📋 問題概要と全体構造
🎯 問題の構成と出題意図
⚡ 電気生理学分野
- 静止膜電位の形成機構
- イオン透過性と膜電位
- 興奮性細胞の特性
- ナトリウム・カリウムポンプ
🧪 イオン輸送学分野
- 塩化物イオン輸送
- 平衡電位の概念
- プロトンポンプとの協働
- 細胞容積調節機構
💀 細胞生物学分野
- アポトーシスの特徴
- ネクローシスの特徴
- 細胞死の形態変化
- 容積調節と細胞死
📖 問題文の詳細解析
💡 導入部分の解説
この導入文は生体における基本的なイオン環境を示しています。重要なのは:
- 細胞外:Na+、Cl-が主要(海水類似環境)
- 細胞内:K+、HPO42-が主要(低Na+、高K+環境)
- 濃度勾配:膜電位と興奮性の基盤
- 進化的意義:原始海洋環境の名残
📊 生理学的イオン濃度
イオン | 細胞外濃度(mM) | 細胞内濃度(mM) | 平衡電位(mV) |
---|---|---|---|
Na+ | 145 | 15 | +60 |
K+ | 5 | 140 | -90 |
Cl- | 110 | 10-30 | -70~-40 |
Ca2+ | 2.5 | 0.0001 | +130 |
🎮 問題の難易度分析
設問 | 分野 | 難易度 | 配点予想 | 重要度 |
---|---|---|---|---|
問題1. 静止膜電位 | 電気生理学 | ★★★ | 25点 | 高 |
問題2. 興奮性 | 基礎生理学 | ★★☆ | 10点 | 中 |
問題3. Cl-平衡電位 | イオン輸送 | ★★★ | 10点 | 中 |
問題4. 機能と濃度 | 応用生理学 | ★★★★ | 25点 | 高 |
問題5. プロトンポンプ | 細胞生理学 | ★★★ | 10点 | 中 |
問題6. 細胞死形態 | 細胞生物学 | ★★☆ | 20点 | 中 |
⚡ 静止膜電位と興奮性の詳細解析
🔋 静止膜電位の形成メカニズム
🔄 静止膜電位形成の詳細ステップ
3個のNa+を細胞外へ、2個のK+を細胞内へ輸送。電荷的に不平衡(起電性ポンプ)。
細胞内K+濃度(約140mM)>> 細胞外K+濃度(約5mM)の急峻な勾配を維持。
安静時の膜はK+に最も透過性が高い。K+が濃度勾配に従って細胞外へ流出。
K+流出により細胞内が負に帯電。細胞内の負電荷(主にタンパク質)が蓄積。
化学勾配(K+流出)と電気勾配(正電荷引き戻し)が平衡し、約-70mVで安定。
Em = (RT/F) × ln[(PK[K+]o + PNa[Na+]o + PCl[Cl-]i)/(PK[K+]i + PNa[Na+]i + PCl[Cl-]o)]
安静時:PK >> PNa ≈ PCl → Em ≈ EK ≈ -90mV
✅ 問題1の解答
静止膜電位が負となる理由(150字以内):
細胞膜は安静時にK+に対して最も透過性が高い。Na+/K+ポンプにより細胞内K+濃度が細胞外より高く維持される。K+が濃度勾配に従って細胞外へ流出し、細胞内に負電荷を持つタンパク質等が残留する。この結果、細胞内が負に帯電し約-70mVの静止膜電位が形成される。(149字)
⚡ 興奮性の本質
🧠 興奮性細胞の特徴
興奮性とは:刺激に応答して膜電位が急激に変化する性質
電圧依存性チャネル
- Na+チャネル:脱分極の主役
- K+チャネル:再分極の主役
- Ca2+チャネル:収縮・分泌
活動電位の特徴
- all-or-none法則
- 閾値の存在
- 不応期
- 伝導性
✅ 問題2の解答
興奮性の説明(50字以内):
刺激に応答して膜電位が急激に変化し活動電位を発生する性質。電圧依存性イオンチャネルにより実現される。(49字)
🧪 Cl-輸送と細胞機能の詳細解析
🔬 興奮性細胞vs非興奮性細胞のCl-濃度
📊 Cl-平衡電位の比較
細胞種 | 細胞内Cl-濃度 | Cl-平衡電位 | 静止膜電位との関係 |
---|---|---|---|
多くのニューロン・筋肉 | 約10mM | 約-70mV | ≈ 静止膜電位 |
一部ニューロン・上皮 | 約30mM | 約-40mV | > 静止膜電位 |
✅ 問題3の解答
Cl-平衡電位の比較(50字以内):
興奮性細胞では約-70mV、一部ニューロンや上皮細胞では約-40mVとより正の値を示す。(48字)
⚙️ 細胞機能とCl-濃度の関連性
🎯 機能別Cl-濃度調節の意義
GABA/グリシン受容体の抑制性応答最適化。Cl-流入により過分極→神経活動抑制。
Cl-分泌による体液・電解質調節。CFTR等のCl-チャネルによる管腔への分泌。
GABAの興奮性作用。細胞増殖・分化・回路形成に重要。
浸透圧変化時のCl-流出入による細胞容積維持。KCl協調輸送体の役割。
✅ 問題4の解答
細胞機能とCl-濃度の関連(150字以内):
興奮性細胞では低Cl-濃度によりGABA受容体の抑制性応答が最適化され、神経活動の精密制御が可能となる。上皮細胞では高Cl-濃度により分泌機能が維持され、体液・電解質の恒常性調節に寄与する。また両者とも容積調節においてCl-輸送が重要な役割を果たしている。(147字)
🔋 プロトンポンプとの協働機構
💡 電気生理学的意義
プロトンポンプ(H+-ATPase)は正電荷を輸送するため、細胞内を負に帯電させます。 Cl-が協働することで電荷バランスを保ち、効率的な酸性化が可能となります。
↓ 電荷不平衡
Cl-チャネル: Cl-out ← 電気勾配
↓ 電荷中性化
効率的酸性化達成
✅ 問題5の解答
プロトンポンプ協働の意義(50字以内):
プロトンポンプによる正電荷排出をCl-流出で中和し電荷バランスを保つことで効率的酸性化を実現。(49字)
💀 細胞死の形態学的特徴
🔬 アポトーシスの形態学的特徴
📱 アポトーシスの形態変化
細胞容積の減少、細胞間接着の離脱、球形化
クロマチン凝縮、核の断片化(pyknosis, karyorrhexis)
細胞膜の出芽、membrane blebbing
細胞の断片化、膜で囲まれた小体の形成
マクロファージによる迅速な貪食・除去
💥 ネクローシスの形態学的特徴
🔥 ネクローシスの病理学的変化
ネクローシスは病理学的細胞死で、外的損傷や病的状態により引き起こされます。
💔 ネクローシスの形態変化
細胞容積の増大、細胞膜の透過性亢進
ミトコンドリア、小胞体の膨化と破綻
核膨化(karyolysis)、核溶解
細胞膜の破壊、細胞内容物の漏出
周囲組織での炎症反応、免疫細胞浸潤
特徴 | アポトーシス | ネクローシス |
---|---|---|
細胞容積 | 収縮 | 膨化 |
核の変化 | 凝縮・断片化 | 膨化・溶解 |
細胞膜 | 保持される | 破綻 |
炎症反応 | なし | あり |
制御性 | プログラム死 | 非制御的 |
✅ 問題6の解答
アポトーシス細胞の形態(50字以内):
細胞収縮、核クロマチン凝縮・断片化、膜bleb形成、アポトーシス小体形成が特徴的。(48字)
ネクローシス細胞の形態(50字以内):
細胞膨化、細胞内小器官膨化、核膨化・溶解、細胞膜破綻、内容物漏出が特徴的。(47字)
✅ 全問題解答一覧
📝 完全解答集
問題1. 静止膜電位が負となる理由(150字以内)
細胞膜は安静時にK+に対して最も透過性が高い。Na+/K+ポンプにより細胞内K+濃度が細胞外より高く維持される。K+が濃度勾配に従って細胞外へ流出し、細胞内に負電荷を持つタンパク質等が残留する。この結果、細胞内が負に帯電し約-70mVの静止膜電位が形成される。(149字)
問題2. 興奮性とは(50字以内)
刺激に応答して膜電位が急激に変化し活動電位を発生する性質。電圧依存性イオンチャネルにより実現される。(49字)
問題3. Cl-平衡電位の比較(50字以内)
興奮性細胞では約-70mV、一部ニューロンや上皮細胞では約-40mVとより正の値を示す。(48字)
問題4. 細胞機能とCl-濃度の関連(150字以内)
興奮性細胞では低Cl-濃度によりGABA受容体の抑制性応答が最適化され、神経活動の精密制御が可能となる。上皮細胞では高Cl-濃度により分泌機能が維持され、体液・電解質の恒常性調節に寄与する。また両者とも容積調節においてCl-輸送が重要な役割を果たしている。(147字)
問題5. プロトンポンプ協働の意義(50字以内)
プロトンポンプによる正電荷排出をCl-流出で中和し電荷バランスを保つことで効率的酸性化を実現。(49字)
問題6. 細胞死の形態的特徴(各50字以内)
アポトーシス:細胞収縮、核クロマチン凝縮・断片化、膜bleb形成、アポトーシス小体形成が特徴的。(48字)
ネクローシス:細胞膨化、細胞内小器官膨化、核膨化・溶解、細胞膜破綻、内容物漏出が特徴的。(47字)
🎯 解答のポイント
⚡ 電気生理学問題
- イオン濃度勾配の重要性
- 膜透過性の選択性
- 平衡電位の概念理解
- ポンプとチャネルの区別
🧪 細胞機能問題
- 構造と機能の相関
- 発達段階での変化
- 病理状態での変化
- 進化的背景の理解
💀 細胞死問題
- 形態学的特徴の区別
- 分子機構の理解
- 生理的vs病理的
- 組織への影響
🎯 解答戦略と攻略法
⏰ 時間配分戦略
📊 推奨時間配分(第1問:25分想定)
設問 | 推奨時間 | 難易度 | 戦略 |
---|---|---|---|
問題1. 静止膜電位 | 8分 | 高 | 機構を段階的に説明 |
問題2. 興奮性 | 3分 | 中 | 定義を簡潔に |
問題3. Cl-平衡電位 | 3分 | 中 | 数値で比較 |
問題4. 機能関連 | 7分 | 高 | 機能的意義を中心に |
問題5. プロトンポンプ | 2分 | 中 | 電荷バランスに注目 |
問題6. 細胞死 | 2分 | 低 | 形態学的特徴列挙 |
📚 必要な基礎知識チェックリスト
⚡ 電気生理学
- ネルンストの式
- Goldman-Hodgkin-Katz式
- Na+/K+ポンプの機能
- 電圧依存性チャネル
- 活動電位の機構
🧪 イオン輸送
- GABA受容体の機能
- KCC2輸送体
- CFTR チャネル
- H+-ATPase
- 容積調節機構
💀 細胞生物学
- アポトーシス経路
- ネクローシスの原因
- カスパーゼの役割
- ミトコンドリア経路
- 炎症反応
✍️ 記述問題攻略法
📝 効果的な記述の手順
問われている現象・機構・意義を正確に理解する
原因→過程→結果、または構造→機能の流れで構成
正確な生理学用語を用いて科学的表現を心がける
要点を整理し、制限字数内で過不足なく表現
🎯 合格への最終アドバイス
この問題の本質:生理学の基礎知識を統合し、生体機能の合理性を理解できているかが問われています。
重要な心構え:
- 分子レベルから組織レベルまでの階層的理解
- 構造と機能の相関関係を意識
- 生理的意義と病理学的変化の対比
- 進化的背景を含めた統合的視点
💡 さらなる学習のために
この問題レベルをマスターするには:
- 生理学教科書:Ganong, Guyton等の定評ある教科書で基礎固め
- 電気生理学:パッチクランプ法等の実験手法も理解
- 病理学:正常と異常の対比で理解を深化
- 分子生物学:チャネル・輸送体の分子機構も学習