②【医学部編入試験】細胞・分子生物学の勉強法

勉強法

本記事では、細胞生物学と分子生物学の勉強法について解説する。

前回の記事では勉強を始める以前の「学習環境の構築」について説明したので、興味がある人はそちらの記事にも目を通して欲しい。

さて、生物学は言うまでもなく生命科学の根幹を成す学問であるが、それゆえに勉強の仕方には工夫が必要である。

生物学は範囲が広すぎるため、細分化・専門化が進んでいることから、初学者は特に勉強方針に迷いがちである。

特に医学部編入試験の受験生はバックグランドに多様性があり、研究者あがりの猛者もいれば文系出身で理系科目に苦手意識を感じている人も多い。

そのため本記事では、医学部編入試験における生物学の全体像を解説した後に、ビギナー向けと玄人向けの二つに分けて解説する。

生物は暗記? 答えは「否」である

受験を指導する側の人や、ときには医学生の中でさえ

生物学(医学生の場合は基礎医学)は暗記だ」と主張する人が多い

しかし、医学部編入試験レベルの自然科学の知識を「理屈抜きの丸暗記」で乗り切ることは常人には不可能だ。

確かに、医学部における基礎医学の試験は暗記で乗り越えることはできる。

しかしそれには理由がある。

医学部のカリキュラムでは、生理学や生化学は別々の科目として試験があり、日程も被っていないことが大半である。

そのため平均的な医学生のスペックがあれば、暗記で試験を突破することは十分可能である。

しかし医学部編入試験は無理である。雑な言い方をすれば編入試験は

「生理学、生化学、生物学など全ての基礎医学を出題範囲とする実力テスト」のようなものである。

これを単純暗記で乗り切るのは流石によほど記憶力に自信がないと難しいだろう。

仮に医学生を集めて、1ヶ月の勉強期間を設けたのちに編入試験の過去問を解かせたとしても、結果は悲惨なものになるはずである。

医学部編入試験が難しい理由は、要求される知識量が膨大であることだけではない。

  • 要項集通りの出題のされ方をするわけではない(問題文の正しい解釈が必要)
  • 単純な名前だけではなく、メカニズムの流れや現象の理由を問われることが多い(思考力が必要)
  • グラフの読み取りや描画問題も出題される(現象イメージが必要)

こうした何気ない、しかし重要なスキルも同時に要求される点にある。

頭の中から知識を探し出して、それをそのまま吐き出すだけでは高得点は取れない。

膨大な出題範囲の中から「何が問われているのか?」「出題者の意図は何なのか?」まで汲み取らないと必要十分なスコアを取ることは困難である。

生物学の勉強において暗記は確かに重要であるが、暗記が目的になるのは手段と目的がすり替わることになるので注意しよう。

医学部編入試験における生物学の勉強法(概論)

ここで私が個人的にオススメする生物学の勉強法をご紹介したいと思う。

もちろん細かい勉強法は人により異なるので、自分に合いそうだと思ったものを採用して欲しい。

単元ごとに重要事項を1つのストーリーとして要約する

医学部編入試験で出題される生命科学の知識は、原則として他の知識と関連している。

平たく言えば、現象の一連の流れ(ストーリー)がある。

このストーリーを理解して自分の言葉で再現できるようになることを目標としよう。

具体例として、腎臓生理を挙げてみる。

腎臓は血中の老廃物を排泄し、体液量と酸塩基平衡の恒常性を維持する臓器である。

老廃物の排泄と尿生成は腎臓の機能単位であるネフロンで行われ、ネフロンは糸球体とボーマン嚢からなる腎小体と尿細管からなる。

腎小体で血液がこし出されるが、血球やタンパク質といった分子量の大きな物質は濾過されない。

濾し出された液体を原尿といい、ここから尿細管でグルコースやアミノ酸、電解質の再吸収が行われて尿が生成される。

腎臓はまた血圧が低下したときや、循環血漿量が減少したときに、RAA系により体液異常を補正する機能を有している。

さらに不揮発酸や水素イオンの分泌により酸塩基の恒常性も維持している

これが全体像である。

青文字の部分に関しては糸球体にあるサイズバリアとチャージバリアの知識を押さえておく。

赤文字の部分に関しては糸球体濾過量(GFR)や腎血漿流量(RPF)、腎血流量(RBF)、糸球体濾過比などの基本的な計算手法を確認しておく。

緑文字の部分は、レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系のメカニズムをまとめておく。

余力があれば尿細管における対交流増幅系や利尿剤の作用機序などを調べておく。


これらを全て文字に書きまとめるのは難しいので、

自分の言葉で誰かに説明してみる、自分に教える(セルフレクチャー)を行うとよい。

「話す」ことは「書く」のと同等のアウトプットである。言葉にする過程で理解が曖昧な部分が明確になる。

このようにある程度のまとまり(ストーリー)を体系的に要約して、理解するように努力しよう。

そうすることで全体像が掴める上に、知識同士が有機的に繋がり、結果として記憶も定着する。

あくまで理解が先にあって、記憶は後からついてくるというイメージである。

インプット教材は少なくとも2冊は用意する

高校生物の範囲であれば、網羅型の参考書を1冊用意して問題集をゴリゴリ解いていけば良いが

大学教養レベルの知識のインプットには、複数の教科書を並行して読むことをおすすめする。

その理由は次のようなものである。

  • 複数の方向からインプットできる
  • 1冊の教科書では必ず説明がわかりにくい部分が存在する
  • 多角的に知識を理解することができる

大学レベルになると、教科書によって違うことが書いてあるなんてことは日常茶飯事である。

そのため1つの知識を複数の教材で見比べながら学習すると理解度がグッと深まる。

個人的におすすめの教材としては、次の2つが挙げられる。
どちらも最低限の生物学の知識を身につけた人が対象となるので注意してほしい。

・Essential 細胞生物学(原著第5版)

Essential細胞生物学(原書第5版) [ 中村桂子 ]

価格:8,800円 (2022/4/10 10:43時点) 感想(2件)

医学部編入試験を受ける人であれば、最も持っておくべき生物学の教科書の一冊と言える。 論述問題など「どこまで書くべきか」がわかりにくい編入試験において、一定の基準となる。 図解や和訳も質が高く、専門的すぎることもないため、万人におススメできるだろう。 問題演習などでわからない問題があれば、まずは本書に立ち返って勉強しよう。
・ヒトの分子遺伝学(第5版)

ヒトの分子遺伝学 [ 戸田 達史 ]

価格:13,200円 (2022/4/10 10:40時点) 感想(0件)

CRISPR-Cas9によるゲノム編集や蛋白質や遺伝物質のふるまいは非常に理解しづらい。Essentialだけでは理解できないもの、より詳細に理解したいものを本書で調べることができる。 専門書なので初学者にとっては難しい書籍ではあるが、ある程度学習が進んだ人が「何故か漠然とした理解」になっている部分をクリアにするために非常に有用である。 価格が高いので無理に購入する必要はないが、余力がある人はぜひ検討してみて欲しい。

【医学部編入試験】分子生物学や細胞生物学の初学者に向けて

生物学にこれまで触れてこなかった人は、まずは高校レベルの生物学から学びを始めよう。

高校レベルとはいっても甘くみてはいけない。

大学受験レベルの生物学の知識があれば、例え合格は難しくても、編入試験でボコボコにされることは少ない。

また、大学受験用の参考書や問題集は極めて質の高いものが1000円台の低価格で購入できる。
これは非常にコスパが良い。

高校の生物学を一通りやれば、生物学の全体像を掴むことができる。ぜひ丁寧に学びたい。

おすすめの問題集・参考書

大学受験の生物の書籍はどれも質が高いので、何を使っても大差はないと思うが、一応王道と言われる書籍を紹介しておく。

・基礎問題精講 (旺文社)

生物[生物基礎・生物]基礎問題精講 [ 大森徹 ]

価格:1,210円 (2022/4/10 11:01時点) 感想(1件)

最も多くの人に使用されている問題集の1つである。重要な問題に絞っているので、問題数が少なく効率良くポイントを押さえていける。解説もわかりやすいが、後述する参考書と併用することでインプットとアウトプットを同時にすることができる。 植物や進化は医学部編入試験にはほとんど出題されないので、スルーしてよい。
・大森徹の最強講義117講 (文英堂)

大森徹の最強講義117講生物 生物基礎・生物 (シグマベスト) [ 大森徹 ]

価格:2,750円 (2022/4/10 11:01時点) 感想(3件)

難関大を受験する受験生が「これは辞書用に持っておけ」と言われる参考書であり、疑問に思うことの大半は本書に答えが書いてある。 非常に分厚いので、頭から尻尾まで通読するのはおススメしない。問題集を解くときに側に置いておき、疑問点が出てきたら調べる。あるいは興味のある分野だけを隙間時間に通読する、といった使い方が効率的だろう。
・生物図録 (数研出版)

フォトサイエンス生物図録3訂版 [ 数研出版編集部 ]

価格:1,243円 (2022/4/10 11:05時点) 感想(1件)

イメージが難しい生命現象を、写真や図解をふんだんに用いて視覚化してくれている書籍である。 特に初学者にとっては、生物学に親しむための非常に強力なツールになるだろう。 まずは本書をパラパラと眺めて、生物学の全体像を掴むと、後の勉強の効率が上がる。 個人的に最も初学者におススメできる書籍である。

他にも良書はたくさん出版されているので、実際に書店に足を運んで手に取ってみるといい。

その中で自分の肌に合ったものを選ぼう。

勉強の仕方

初学者の場合は予備知識がほとんどないと思うので、まずはインプットから始めよう。

次のステップで勉強してみてはどうだろうか。

  1. 図録や教科書で特定の範囲を通読、ノートにまとめて整理
  2. 問題集の当該範囲の問題を解いてみる
  3. 解説を熟読し、解けなかった原因や足りなかった知識を確認
  4. 疑問点が残ったら「大森徹の最強講義」で調べる
  5. まとめとしてその範囲を改めて自分の言葉でまとめる

最初は「いかに忘れにくくインプットするか」が重要であり、そのためには

インプットした後に簡単な形でもよいので、すぐにアウトプットすることが重要である。

新しく知った知識を家族や友人にも理解できるように説明してみるのもおススメだ。

Kalsなどで一通り生命科学を学んだ人に向けて

河合塾Kalsや独学で、ある程度生物学を勉強してきた人に対しては

とにかくアウトプット量を増やすことを強くおすすめする。

本当の応用力を身につけるためには、一定量の問題演習は避けられない。

しかし、医学部編入試験はアウトプット教材が市販にほとんどないことが致命的な課題であることは周知の事実であり、それゆえにKalsへの入学が半ば必須になっている。

ではどうアウトプットしていくのか。

市販の教材でアウトプットする場合

繰り返しになるが、医学部編入試験向けの市販の教材はほとんど存在しないに等しい。

一応、河合塾Kalsから一冊出版はされている。

・医学部編入への生命科学演習 (講談社)

【送料無料】 医学部編入への生命科学演習 / 井出冬章 【本】

価格:4,730円 (2022/4/10 11:22時点) 感想(0件)

唯一とも言える、市販の医学部編入試験向けの問題集。 難易度ごとにA問題とB問題に分かれており、約150問ほどが収録されている。 特にA問題は重要な問題が集められている。 一方で解説が皆無に等しく、古い書籍のためか、B問題の応用問題では昨今の編入試験の問題に対応しているか疑問が残るものもある。

この書籍は優れたものに違いないが、やはり解説がないのが非常に痛い。


私の宣伝となり恐縮であるが、私も医学部編入試験向けのアウトプット教材を作成している。

特に解説を詳しくすることと、図解を入れて視覚的に理解できるように作問した。

題材も実際の過去問を研究する中で、重要そうなもの、医学部でも強調される知識を厳選している

購入者の方からお褒めの声を頂いているので、興味のある方はぜひ検討してみて欲しい。


分野ごとにストーリーを作ってまとめていくのもオススメ

上述の腎生理のまとめのように、自分で特定の分野について知識を繋げてストーリー化する作業も非常におすすめだ。

特に一通りの勉強が終わった人にとっては

「自分の頭の中にある知識を有機的に繋げて、一つの生命現象を説明できるか」

という極めて重要なスキルを身につけるための訓練になる。

適宜、教科書や解いてきた問題を振り返りながらストーリーを完成させよう。


最後に

生物学の勉強は、医学部編入試験の対策の中で大きな割合を占める。

一方で範囲が膨大すぎること、初学者と履修者で勉強の仕方が全く異なることから、効率良く勉強するのが難しい分野でもある。

この記事が読者の皆さんの学びに役立てば幸いである。

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